安倍総理中東歴訪の背景。

QaboosBinSaidAlSaid
オマーンのカブース前国王



司令官殺害の報復としてイランが
イラクのアメリカ軍拠点をミサイル攻撃
中東情勢の悪化が懸念されたため一度中止が検討された
安倍総理の中東歴訪ですが、
アメリカ、イラン双方がその後事態の鎮静化に動いたため
予定通り、1月11日~15日の日程で
サウジアラビア、UAE、オマーンの三カ国を訪問しました。

日本の石油タンカー攻撃の真相が不明な中で
賛否ある自衛隊中東派遣を決めたのにも拘らず
トップが怖気づいて逃げ出したらさらなる批判を浴びかねない
という状況でもあったでしょうが、
いくら双方が鎮静化を願っていたとしても
ウクライナ航空の誤射撃墜などの偶発的な事件もあり、
依然緊張状態が続いていることに変わりありません。
あえてここで和平外交を敢行するという
安倍総理の決意には並々ならぬ思いがあったでしょう。

日本にとってアメリカは唯一の同盟国
またイランとも経済中心に友好的な関係を持っています。
アメリカとイランの関係が安定することは
日本にとっての利益なわけですが、
イラン・イスラム革命以降、アメリカとイランは犬猿の仲です。
こうした構造はキリストとイスラムの対立
その外にある仏教国日本という宗教問題の側面もありますが、
日本とアメリカとイランの三角関係を考えると、
ここはより実利的なエネルギー外交の側面で
捕える方が分かりよいかと思います。

アメリカはシェールガス革命によって
サウジを抜いて世界一のエネルギー大国となったため
このシェールガスを日本を含め世界中に売りたいと思っています。
そのためイランを念頭に中東の産油国を不安定化させて
オイルショックを引き起こしたいという目論見が見えます。
一方、日本は未だにエネルギー小国です。
3.11以降反原発、脱原発傾向が強い状況にありながら
中東危機でオイルショックまで起こされてしまっては
アメリカの思うがままシェールガスを買う他なくなってしまいます。
欧米から数々の経済制裁を受けているイランにとって
日本は西側で唯一の友好国です。
イランは日本向けの石油取引を今後も継続したいと考えています。
こうした状況を鑑みればイランが
日本の石油タンカーを攻撃するメリットが一つもないことが分かります。

ひと先ずは護衛艦派遣を決定し、
「自国のタンカーは自国で守れ」という
アメリカに対して一応の義理を通しつつ
アメリカ主導の有志連合には参加しないことで
イランに対しても筋を通しましたが、
アメリカのごり押しに日本一国で対抗するのにも限界があります。
そこで今回の中東歴訪があります。

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サウジアラビア

Flag of Saudi Arabia 

最初に訪れたサウジアラビアは次回のG20議長国にもなっており、
中東・アラブ諸国、
またメッカを有するイスラム圏のリーダーといえる存在です。
ムハンマド皇太子ショギ事件
ジャーナリスト暗殺を指示したとされ、
一時国際的非難が高まり、
未だにサウジでは強権的な政治が行われているという
疑いをかけられている一方で
ムハンマド皇太子による開放路線によって
35年間禁止されていた映画館が復活、
女性参政権も認められるなど、
厳格で保守的なイスラム国家のイメージから脱皮を始めようとしており、
偶像崇拝を禁じるイスラム国家であるにも関わらず、
皇太子本人が大のアニメオタクで、
昨年には中東初のアニメエキスポが開催され、
国産アニメにも挑戦するなど
石油依存経済からの脱却を目指す改革志向もあります。

民族衣装を着てムハンマド皇太子と会談する安倍総理
(出典:首相官邸)

スンナ派でアラブ人国家であるサウジにとって
シーア派でペルシャ人国家のイランは宗派も民族も違います
そしてサウジはアメリカの同盟国であり、
ホルムズ海峡を監視する有志連合にも参加。
やはりイランとの関係も良くありません。
しかし、サウジもイラン同様に
オイルマネーの国である事には変わりなく、
原油生産量が50%も減少したとされる
昨年のイエメンのフーシ派によるサウジ油田の攻撃も
日本の石油タンカー攻撃と同様に
アメリカは執拗に裏にイランがいると訴えていましたが、
サウジはイラン問題に対して冷静に外交努力を続けるとしており、
自国のシェールガスを売りたいアメリカによって
不用意に湾岸諸国を荒らされることも内心快く思っていないでしょう。
日本にとってサウジは最大の原油供給国であり、
サウジにとって日本はアメリカに次ぐ輸出相手国です。
石油依存の強いサウジにとって日本は重要な顧客であり、
日本のイランとの友好関係も「粘り強く多角的」と評価し、
一定の理解を示しています。
今回の日本の和平外交に反対する理由はありません。

UAE(アラブ首長国連邦)

Flag of the United Arab Emirates 

次の訪問先UAEはサウジの国王に対する首長であり、
首長が治めるアブダビやドバイなどの首長国が集まった連邦国家で
サウジアラビアの影響の強い国ですが
地域で差はあれどサウジと比べると比較的宗教的戒律は緩く、
イランとの関係もペルシャ湾を挟んで国土が近いことから
サウジよりかは幾分融和的で、
イエメンに対する政策ではサウジとも対立点を持っています。

アブダビのムハンマド皇太子との会談
(出典:首相官邸)

日本にとってUAEはサウジに次ぐ原油供給国であり、
UAEにとって日本は最大の輸出国(貿易黒字国)です。
今回のアブダビ首長国のムハンマド皇太子との会談では
自衛隊派遣を「歓迎」し、
さらに踏み込んで「協力・支援を惜しまない」と表明したため
日本はアラビア海に面したオマーンのサラーラ港を
自衛隊派遣の拠点に検討していましたが、
さらにオマーン湾に面したUAEのフジャイラ港も
護衛艦の寄港先として検討が進められる事になりました。

オマーン

Flag of Oman

最後の訪問先オマーンは先の二ヵ国の訪問とは少し趣が違います。
サウジとUAEは共に最大のエネルギー供給国であり、
例えイランと関係が悪化したとしても
日本向けの原油輸出に便宜を図ってもらう
という目的があったと思いますが、
オマーンはOPECにも加盟しておらず、
日本の石油輸入比率も問題のイラン以下でそこまで高くありません。

第一に今月10日に亡くなったばかりの
カブース前国王の弔問があります。
もちろんオマーン近海で自衛隊が活動するので
その説明と協力を要請する目的もあるのですが、
オマーンはシーア派でもスンナ派でもない
もっとも古典的なイバード派が主流の国であり、
サウジVSイランのような宗教対立もなく、
全方位外交を行っており、
サウジともイランとも良好な関係を築いています。

イスラム思想スペクトル

有志連合に参加するサウジとUAEのみの訪問であれば
イランに「日本はアメリカ側についたのか」
間違ったメッセージを与えかねませんが、
最後にオマーンに立ち寄ったところが一番のポイントだったのでしょう。
カブース前国王はまさにアメリカとイランの仲介をして
イラン核合意を実現した中東和平の立役者であり、
これに弔意を表する事で、
一方的に核合意から離脱したアメリカにくぎを刺す形となっているのです。

ハイサム国王への弔問
(出典:首相官邸)

今回の中東歴訪が中東和平に
どの程度影響を与えるのかは未知数な部分が多いですが、
少なくとも国際社会に向けて
日本の立ち位置、その意志を表明することはできたと思います。
このまま自衛隊中東派遣も何事もなく終わればいいのですが…
結局、アメリカ次第なような気もします。

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