中東危機とトランプ・リスク。

アメリカ軍は1月28日に起きたヨルダンでのドローン攻撃により
米兵3人を殺害した親イラン武装組織フーシ派への報復として、
2月3日、イギリスと共同でイエメンのフーシ派拠点を新たに攻撃しました。
イラクとシリアで空爆を実施したばかりで、中東戦争の拡大が止まりません。

イスラエルのガザ侵攻以降、中東で初めて米軍が犠牲になり、
バイデン政権はイランと直接対峙することを避けようと対応に苦慮しましたが、
年末に大統領選を控えていることもあり、
弱腰との批判を跳ねのける必要もあったのでしょう。
イラン側は今回の攻撃に対して関与を否定していますが、
一連の動きはイスラエルのガザ侵攻が引き金になったことは否めないでしょう。
イスラエルがパレスチナ支配を続けるのであれば
イランの思惑に関わらず、地域の不安定化に一層の拍車がかかるのは確実です。

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「もしトラ」と中東

一方でアメリカにとって
「いつまでイスラエルを擁護し続けられるか」という問題があります。
バイデン大統領は二国共存が唯一の平和への道とイスラエルを説得しますが、
ネタニヤフ首相は聞く耳を持たず、各国が停戦を臨む中、
ハマスの撲滅を掲げ、南部のラファ侵攻を強行する姿勢です。
このままガザ全土を制圧して併合を既成事実化する魂胆でしょう。

アメリカはイスラエルの自衛権としてハマスへの報復を認めていますが、
自衛権の範疇を超えるパレスチナ人殺戮を繰り返し、
さらには戦後のガザ占領を公言するネタニヤフに
バイデンもいら立ちを隠さなくなり、
「無差別な爆撃によってイスラエルは世界で支持を失いつつある」と発言。
私的な会話ではネタニヤフを「ろくでなし」とまでこき下ろしています。

Donald Trump official portrait
ドナルド・トランプ米国前大統領

中東情勢最大の懸念材料は共和党のトランプ候補です。
バイデン政権が年末の大統領選で退陣を余儀なくされれば
トランプ大統領の復活となります。
トランプ前大統領はイラン核合意からの離脱を決定し、
初の外遊先でイスラエルを選び、嘆きの壁を訪れたり、
アメリカ大使館のエルサレム移転を実行し、
「二国共存に拘らない」と発言するなど親イスラエルカラーを前面に出してきました。
まさに今日のパレスチナ情勢を招いた張本人と言える存在です。
ネタニヤフはアメリカ大統領選までガザ侵攻を引き延ばして、
トランプ大統領復活の暁にはアメリカからガザ地区とヨルダン川西岸の併合
認めてもらおうという心積もりかもしれません。

しかし、パレスチナ併合中東のバランスを崩壊させる決定的な出来事であり、
イランとの衝突はもとより、イスラエルと関係が安定しているエジプトや
近年は国交正常化に進んでいたサウジアラビアなどの
親米、親イスラエルのアラブ国家との関係悪化は免れません。
もちろんトランプは商売人なので
自国により有意な条件を引き出そうとしているだけで、
ネタニヤフの目論見通り、トランプが動かない可能性もあります。
実際、トランプ時代はこうした地域紛争においては
経済制裁が主で武力行使をしてきませんでした。
また、アメリカ国内におけるユダヤロビーの影響力ですが、
近年は移民の数が増えており、以前ほどの優位性が薄れていることも事実です。
パレスチナでの悲劇的な映像が流れるたび、親パレスチナの意見が増えつつあります。

元来、アメリカ国内のユダヤ人は民主党支持者が多いのですが、
娘婿のクシュナー氏が熱心なユダヤ教徒であり、
在任中、親イスラエル政策を取ってきたトランプ前大統領の影響もあり
共和党支持者が増えている状況で、
今回の選挙戦においても共和党候補たちは相次いで親イスラエルを表明しています。
トランプや共和党の親イスラエル発言は単純に
民主党からユダヤ票を奪おうとする選挙対策の一環でしょう。
このようにトランプ時代における分断と対立を経て
共和党と民主党の伝統的な性質というのは完全に崩壊しており、
かつてのエネルギッシュなアメリカを体現する人物が現れていない現状です。
今回の大統領選は実質的にバイデンとトランプという老人対決
新しい有力候補が出てこないこともアメリカ弱体化を裏付けるものとなっています。

アメリカNATO離脱とソ連復活

トランプ・リスクは中東だけの問題ではありません。
トランプ候補はNATO離脱に言及しており、
ロシアのウクライナ侵攻に対して
NATOの加盟国が適切な防衛費を拠出しなければ
「ヨーロッパを守らない」と発言するのみならず、
ロシアに好きなように振舞うようにけしかけるとまで言っています。
トランプ候補は前回に引き続き安保ただ乗り論を振りまき、
在外米軍の撤退をほのめかしており、
アメリカの軍事的影響力が無くなった
ヨーロッパやアジアで何が起こるのか不安でしかありません。
トランプ時代、貿易問題で米欧関係が悪化したので
ヨーロッパはアメリカを除いた集団防衛のあり方を検討するなど、
トランプ・リスクの対応に追われています。

プーチンはウクライナから隣接する東欧諸国に
追加的に侵攻する意図はないとしますが、
もはやNATOに加盟したスウェーデン、フィンランドとの関係が
ウクライナ侵攻前に戻るとは思えません。
実際にNATO非加盟のモルドバ衛星国化計画がリークされ、
ロシア当局はソ連時代の記念碑を撤去した事を理由に
バルト三国の政府高官を指名手配し、東欧諸国にプレッシャーを与えています。

またロシア国内では昨年8月航空事故死した
ワグネル創設者のプリゴジン氏に続き、
16日、北極圏の刑務所に収監されていた政敵ナワリヌイ氏が不審死しました。
ロシア国内ではプーチンと対立した人物の不審死が相次いでおり、
領土拡張と言論弾圧を志向するプーチンは
ソ連復活に動いている事は間違いなさそうです。

Alexey Navalny (cropped) 1
プーチン政権を批判していたナワリヌイ氏
(出典:Mitya Aleshkovskiy

極東の台風の目

アジアにおいては韓国で反北の尹錫悦政権が誕生してから
南北関係が急激に冷え込み、
北朝鮮が韓国を第一の敵と表現、
軍の創立記念日である2月8日には金正恩総書記が
「有事に韓国領土を占領する事が国是だ」と演説するなど、
南北関係の緊張は過去最大の高まりを見せています。

トランプ時代の韓国は親北派の文在寅政権であり、
平昌オリンピックを期に南北関係は良好だったので今とは180度違います。
一方で金正恩はミサイル発射を繰り返してきました。
トランプ政権は安倍政権と固くタッグを組んで
武力行使の含みを持つ圧力外交を展開し、
その圧力が奏して米朝首脳会談が行われるに至りました。
韓国が主張した対話ではなく、アメリカの核兵器がもたらした結果です。
もちろん韓国は核戦力を持たないので、
在韓米軍が撤退し、トランプからはしごを外された韓国は
新たな抑止力を求めて核武装する可能性があります。
そして、朝鮮半島がキナ臭くなればなるほど、
中国は台湾侵攻に動きやすくなります。

そもそもトランプは台湾有事の際のアメリカの介入を明言していません。
一方で就任後に中国に対し、
一律60%の関税を掛けることを検討していると報道されました。
これまでのトランプの動きを見てみると
最初に強い主張を打ち出して、ほどほどの所で妥協し、
見かけ上の勝利を積み重ねてきた所があります。
まさに北朝鮮との交渉がそうであり、
初の米朝首脳会談を実現したものの結果は何も残っていません。
まず第一にトランプはアメリカファーストを掲げているので
台湾、東シナで対立するものの軍事衝突は避けるでしょう。
中国はその点をついて上陸作戦などの
大規模な侵攻以外の方法で台湾に侵入してくると思われます。

安倍元総理亡き今、麻生副総裁がかつての安倍総理のように
トランプ候補とコンタクトを取ろうとしましたが、実現しませんでした。
台湾を訪問するなど、麻生副総裁は精力的に
安倍元総理の穴を埋めようと努力をしていますが、簡単にはいかないようです。

日朝首脳会談は実現するか?

岸田政権の支持率は10%台と再び歴代最低支持率となり、
政権基盤が不安定になっていますが、
このタイミングで北朝鮮の金正恩総書記の妹の金与正氏
岸田総理の平壌訪問に言及する異例の談話を発表するなど、
急速に北朝鮮が日朝交渉に意欲を示しつつあります。

Kim Yo-jong at Blue House
金与正氏
(Kim Jinseok (Official photographer of Republic of Korea), Blue House (Republic of Korea))

元日の能登半島地震では金正恩総書記が「岸田文雄閣下」と表現し、
地震のお見舞いメッセージを発表するなど急激な態度の変化が見られます。
韓国との関係が冷え込み、「もしトラ」を考える中で
北朝鮮に残された道は日本との交渉しかありません。
なぜそうなったのかと言えば
安倍外交の成果だったことは言うまでもないでしょう。
安倍総理は唯一トランプ大統領のアメリカを手なずけて
日米協力して北朝鮮に対する圧力を加え続けました。

岸田総理は条件を付けずに金正恩との首脳会談を実現するべく
ハイレベルで協議を行っているという事ですが、
金与正氏は拉致問題は解決済みという主張を変えておらず、
「すでに解決された拉致問題を両国関係の障害物としないのであれば」という
条件を付ける形で日朝首脳会談の可能性に含みを持たせました。

日朝首脳会談を実現して拉致被害者が帰国できるようなことがあれば
岸田内閣の支持率も上向く可能性はあります
外交の岸田の力量が試されるところですが、
自らの権力維持ではなく、
これからも続く日本の未来のために焦って半端な合意することなく、
北朝鮮からのさらなる譲歩を引き出せるように取り組んで欲しいと思います。

トランプリスクを考えた時、
朝鮮問題や台湾問題で中心的な役割を担うのは他でもない日本です。
結局日本に足りないのは核兵器(軍事力)です。
今回の北朝鮮の対応を見て分かるように
北朝鮮や中国のようなならず者国家には力で対峙するしか交渉の土台が作れません。
憲法が障害となっているのであれば憲法改正を行うのは
日本国民にとって義務と言ってもいいのではないでしょうか?
日本が力を付ければ中東問題でも主要的な役割を担うようになるでしょう。

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