高市総理が3月18日から20日の日程で訪米し、
トランプ大統領との日米首脳会談に挑みました。
高市総理はイラン攻撃後、トランプ大統領に会う最初のG7首脳であり、
直近にトランプが日本を含む同盟国に
ホルムズ海峡への艦艇派遣を求めていた事もあって、
世界中がこの会談に注目しました。
日本はアメリカの同盟国でありながら
G7で唯一イランと友好関係を維持している国であり、
イラン戦争において、まさに板挟みの境遇。
日本の姿勢やアメリカの反応に注目が集まりました。
エネルギー価格の高騰で国民生活も逼迫しており、
日本国民も固唾をのんで会談を見守ったでしょう。

目的が変わった会談
日本にとって今回の日米首脳会談は元々、
4月のトランプ大統領訪中を前に同盟関係を強固にする
という目的で、日本側の要請でねじ込んだものでした。
米中G2時代、極東の安全保障について
日本の頭越しでディールされることは大きな脅威です。
特に昨年11月の「台湾有事発言」以降
日中の外交摩擦が過熱している事もあり、
日本にとっては日中の紛争でアメリカ側の理解を得ることが大事です。
しかし、アメリカのイラン攻撃によって予定は大きく狂いました。
トランプ大統領は戦争継続を理由に訪中を1カ月延期すると発表し、
日本を含む同盟国にはホルムズ海峡の安定運航のために
艦艇の派遣を要請し、有志連合を呼びかけました。
しかし、各国はアメリカの始めた戦争に巻き込まれたくないと
艦艇派遣に消極的であり、
日本も紛争地域に自衛隊艦船を派遣するのは憲法上の制約が大きすぎます。
トランプは同盟国の煮え切らない態度に不満を露わにし
激怒しているという報道までありました。
このタイミングでは誰もトランプに会いたくない、
ウクライナのゼレンスキー大統領のように
報道陣の集まる会談冒頭で厳しい要求や苦言を呈されたり、
報復関税や、貿易面での過大な要求を突き付けられる可能性もあります。
日本はこちらから打診した日程の手前、逃げるに逃げられない状況でした。
対中国は日本にとって重大なテーマではありますが、
イラン戦争に関連して憲法上の制約をトランプに説明し
艦艇の派遣ができない日本側の事情への理解を得ること、
また防衛費増などの具体的数字を求められないこと、
そして、エネルギー安全保障としての日米協力に繋げることが
日本にとって大きなテーマとなりました。
巨大な踏み絵
トランプ大統領が求めた艦艇派遣は
同盟国から賛同が得られなかったためか、
会談直前に「どの国の支援も必要としない」と要請を撤回されました。
トランプはこの派遣要請を
同盟国の信頼関係を測る踏み絵として使ったと明言しています。
ドンロー主義を進めるトランプにとって、
アメリカは同盟国を守るために莫大なコストを負担しているが、
アメリカが助けを求めても同盟国は応じない、
という構図を示すことで、
防衛費負担の増加や同盟関係の再定義へと持ち込む意図があったと考えられます。
ただ、それは一種の強がりであり、
実際にはイランが予想以上に持ち応え、
ホルムズ海峡封鎖がエネルギー価格の高騰を招き、
アメリカ国内にも影響が出ている中で、
同盟国の支援を本音では必要としていた可能性もあります。
ただ、同盟と言ってもアメリカが一方的に始めた戦争について
協力を約束しているものではないので、
受け止め方は国によって異なり、
スペインは明確にアメリカ、イスラエルの行動を非難し、
対イラン作戦に自国領土内の基地を使わせないとしています。
日本へのプレッシャー
今回の艦艇派遣要請については、
実質的に日本を強く意識したものと言えます。
中国、フランス、ドイツ、イギリス、EUは
イラン核合意など政治的に関わってはいるものの、
原油に関する中東依存度は比較的低い一方で、
日本は輸入原油の約95%がホルムズ海峡を通過しています。
つまり、日本は「航行の自由」を守る責任を負うべきだ、というロジックです。
これは一理あります。
日本は資源の少ない経済大国です。
戦前は石油の多くをアメリカに依存し、
対日石油輸出停止が開戦の一因となりました。
戦後は中東依存に移行しましたが、
中東戦争やイラン革命によるオイルショックによって
高度経済成長は終焉を迎えました。
今回の事態は、いわばオイルショックの再来であり、
存立危機事態に準ずる状況とも言えます。
日本の選択肢
日本はG7の一員であり、
「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を推進するアメリカのパートナーです。
また戦後、日本近海に大量設置された機雷を除去してきたことから
日本の掃海技術は世界トップクラスと謳われており、
湾岸戦争後のペルシャ湾派遣で掃海実績を持っています。
トランプは日本の掃海艇派遣を強く求めました。
安倍政権時のイラン危機ではアメリカ、イラン双方の顔を立てて
アメリカ主導の有志連合には参加せず、
独自にホルムズ海峡の外側のアラビア海北部・アデン湾周辺に
自衛隊艦艇を展開し、情報収集活動を行いましたが、
前回と違い今回はまさに戦争中という事であり、全く次元が異なります。
この際、アメリカへの積極的な協力を行い
恩を売るべきだという意見もありましたが、
憲法9条の制約により、
日本は紛争地域に自衛隊を直接派遣することはできません。
これが法治国家としての限界です。
会談の結果と成果
今回の日米首脳会談は、当初懸念されていたような
軍事的要求や対立には至らず、
日米同盟の枠組みを維持しつつ、
現実的な協力関係を強化する方向でまとまりました。
今回の会談は現段階で考え得る最良の結果であり「成功」だったと言えるでしょう。
「世界中に平和と繁栄もたらすのはドナルドだけ」と
過度なトランプ礼賛に捉えられかねない会談冒頭の高市総理の発言も
捉え方次第ではトランプ大統領自らが始めた戦争をやめれば平和になる
という二重の意味を持ちます。
まずイラン情勢について、日本は一貫して
「イランの核兵器開発は認めない」という立場を示しつつ、
ホルムズ海峡の閉鎖や航行の安全を脅かす行為、
周辺地域への攻撃といった点に限定してイランを非難しました。
これはアメリカの軍事行動そのものには直接言及せず、
イランの行動に焦点を絞ることで、
日米の立場の違いを表面化させない極めてバランスの取れた対応です。
その上で日本は、
エネルギー安全保障を軸に日米協力の方向性を明確に打ち出しました。
米国産エネルギーの生産拡大に日米で協力
日本国内での米国産原油の備蓄に関する共同事業の検討といった具体的提案を行い、
相互利益型の協力関係へと議論を転換しています。
また安全保障分野では、ミサイルの共同開発・共同生産、
同盟の抑止力・対処力の強化
経済分野では、重要鉱物・AIなど先端分野での協力
サプライチェーン強靭化、SMR(小型モジュール炉)など戦略投資など、
幅広い分野での協力強化が確認されました。
つまり今回の会談は、軍事的な踏み絵を回避しつつ、
エネルギーと経済安全保障へと議題をシフトさせた点に最大の成果があります。
また中国や北朝鮮問題についても抜かりなく議論を行い
しっかりと合意形成をしています。
日本にとっての最大の関心は中国問題です。
会談冒頭、何度も時計を見る高市総理でしたが、
話す議題があまりに多かったのではないでしょうか?
アメリカ側の要請でワーキングランチが中止になり、会談時間は延長されました。
日本外交の巧妙さ
今回、日本が厳しい要求を回避できた背景には、
会談直前の外交布石が大きく影響しています。
特に象徴的なのが、会談の僅か2時間前に発表された
日本主導でまとめられた6カ国共同声明です。
日本・イギリス・フランス・ドイツ・イタリア・オランダによって
発出されたこの声明は、アメリカのイラン攻撃への直接的評価は避け、
一方でイランの湾岸諸国への攻撃とホルムズ海峡の実質的封鎖を非難
という極めて精緻な内容でした。
国連決議を引き合いに出しているのも特筆すべき点です。
これによりアメリカを孤立させないという立場を明確にし、
結果として日本に対する過度な要求を抑制する効果を生みました。
短期間でこれをまとめ上げた外務省の調整力は評価に値します。
さらに、イランのアラグチ外相と旧知の中である
茂木外務大臣もイラン側と対話を続けており、
拘束されている日本人の解放に向けた協議を進めるとともに、
日米会談後にはイラン側から
「日本のタンカー通航に配慮する」とのシグナルを引き出しています。
つまり今回の構図は、アメリカからは協力を求められ
イランからは仲介を期待されるという、
日本が双方から必要とされる状況を作り出した点にあります。
エネルギー戦略の転換点
今回の会談で特に重要なのは、
エネルギー安全保障の議論が一段階進んだ点です。
従来、日本は中東依存を前提とした構造でしたが、
今回明確に米国産エネルギーへのシフトが議題として浮上しました。
アメリカはシェール革命により、
サウジを抜いて世界一位の産油国となりました。
ここで注目すべきが、アラスカです。
アラスカは地理的に日本に近く、
中東ルートの中東紛争、ソマリア沖の海賊、中国の海洋進出
といった複合的リスクを回避できる可能性があります。
太平洋は相対的に安定した海域であり、
シーレーン防衛の負担も大きく異なります。
さらに重要なのは、日本とアラスカとの関係強化が
日本の北西航路開発への関与を内包している点です。
地球温暖化の影響で北極の氷が解ける事で、
近年注目される北極海航路は
将来的には欧州とアジアを結ぶ重要な物流ルートとなり得ます。
一方で、最大の恩恵を受けるロシアの影響力が強く、
安全保障上のリスクも伴います。
この点において、日本の過去の動きは示唆的です。
安倍政権は日露平和条約締結を目指し、
ロシアとの関係改善を軸に北方領土での共同経済活動、
極東シベリア開発を推進し、北極圏への関与を模索しました。
この路線はロシア軍のウクライナ侵攻により頓挫しています。
安倍元総理の弟子である高市総理は
ベーリング海峡を挟んだ反対側、すなわちアラスカに着目しています。
これは単なるエネルギー調達先の変更ではなく、
ロシア主導の北極海航路から、
米国主導の北西航路へと軸足を移す戦略とも言えます。
言い換えれば、北極海航路を視野に入れつつロシアリスクを回避し、
同盟国であるアメリカと連携するという極めて高度な地政学的判断です。
現状ではアラスカ産石油は、ほとんどがアメリカ国内で消費されており、
即時の供給源とはなりません。
しかし、日米共同での開発投資、輸出インフラ整備
北極圏を含めたエネルギー・物流戦略の連携を進めることで、
将来的なリスク分散の中核となり得ます。
さらに重要なのは、この流れが既に
具体的な投資案件として動き始めている点です。
石破政権下で合意された約150兆円の対米投資の一環として、
GEベルノバ日立によるテネシー州・アラバマ州でのSMR建設(最大400億ドル)
ペンシルベニア州での天然ガス発電施設建設(最大170億ドル)
テキサス州での天然ガス発電施設建設(最大160億ドル)
といった大規模プロジェクトを発表しています。
これらは単なる対米投資ではなく、
エネルギー供給網そのものに日本が関与する構造を作るものです。
従来の日本は資源を「買う側」でしたが、
今回の枠組みでは供給・インフラ・技術に関与することで、
エネルギーの「調達」から「構造」へと踏み込んでいます。
これは同時に、日米の貿易問題を
エネルギー安全保障の強化へと転換したことを意味します。
カナダというカード
さらに今回、日本がクレバーだったのは、
日米首脳会談に先立ち、3月6日と7日に来日した
カナダのカーニー首相との首脳会談を行い、
カナダとの関係を強化していた点です。

(出典:Cabinet Secretariat)
資源の少ない日本はオイルショックの際、
原発開発に舵を取り、エネルギーの石油依存率を下げることで対応しましたが、
3.11以来、多くの原発が稼働を停止し、以前の水準には戻っていません。
今回のホルムズ海峡閉鎖において新たに再稼働を進めるのは
反原発の世論や法的制約があり、現実的ではなく、
このままでは石油を売りたいアメリカの思うがまま、高値で買わざるを得ません。
しかし、カナダもシェール革命の恩恵を受けた世界第4位の産油国で、
かつアメリカが離脱したTPP11のパートナーです。
また、カーニー首相は、
アメリカに依存しない中堅国連携を模索する立場にあり、
トランプ政権とは一定の距離を取っています。
カーニー首相は日本語での挨拶、
3月7日の高市総理の誕生日を祝うサプライズで、
高市総理が来日したイタリアのメローニ首相に対して行った
誕生日祝いを再現して見せるなど、日本をかなり研究していました。
カナダにとってもアメリカとの関係がギクシャクする中で
日本との関係強化が重要でした。
この状況において日本は、
日本とカナダの関係を包括的・戦略的パートナーシップに格上げし、
「アメリカ一択ではない」エネルギー外交の余地を確保しています。
これは結果として、アメリカからの価格交渉圧力の抑制
エネルギー調達の選択肢拡大という交渉カードとして機能します。
総括
今回の日米首脳会談は、単なる危機対応ではなく、
日本の外交・エネルギー戦略の転換点となる会談でした。
軍事的関与は回避し、エネルギー協力へ議題転換
多国間連携で圧力を分散させ、米国・イラン双方との関係維持
これらを同時に成立させた点で、
今回の日本外交は極めて高度なバランスの上に成り立っています。
ただしこれはあくまで「回避と調整」の成功であり、
構造的な問題が解決したわけではありません。
今後、台湾有事や中東情勢の更なる悪化など、
より深刻な局面において同じ対応が通用する保証はなく、
日本は引き続きエネルギーと安全保障の自立性を高めていく必要があります。
今回の会談は、その方向性を明確に示した重要な一歩であり、
アラスカの石油開発や南鳥島のレアアース開発を
日米共同で進める事で
日本が「資源を持たない国家」から
「供給構造に関与する国家」へと転換しつつあることを示した
象徴的な出来事だったと言えるでしょう。
今回、憲法9条は日本を守る盾となった側面はありますが、
存立危機事態に直結する台湾有事はその限りではありません。
現実的な脅威にさらされた際にどう動くか
今回は良いシミュレーションになったと言えるのではないでしょうか?





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