日本では参院選挙を控え、国内問題にフォーカスが当たりがちです。
消費税を非関税障壁と見るトランプ関税と連動する形で、
4月以降、税金問題が喚起され、各党が減税政策を打ち出しています。
また2024年9月頃から進む日本人の主食である米の高騰と供給不足、
令和の米騒動の議論もあります。
しかし、これも元をたどれば
戦後のアメリカの要求による減反政策の結果であり、貿易問題です。
経済安全保障、食料安全保障を見ていく中で
外交と経済と言うマクロな視点が要求されます。
トランプ関税の影響
石破総理は2月8日、トランプ大統領と初会談を行い、
「追加関税」を課さないように度々訴えてきましたが、
3月26日にアメリカは
輸入される全ての自動車や自動車部品に対する25%の追加関税を発動、
また4月2日、全世界を対象に一律10%とする相互関税が発動され、
日本からの輸入品に対する関税率は
アメリカが独自で判断した非関税障壁を基に、
基礎関税である10%に14%を追加した24%となりました。
予想もしなかった高関税に市場は大混乱。
日本政府は第一次トランプ政権時代、盟友である安倍元総理との間で結ばれた
2019年の日米合意を反故にしたものであると反発しました。
日本はすぐに報復措置を取らなかったため、
基礎関税の10%を除く14%の上乗せ分に関して90日間停止となっています。
この間に担当閣僚に指名された赤沢経済再生担当相を筆頭に
粘り強くアメリカと貿易交渉を進める構えです。

最初に高い要求を突き付けて、ディールにより妥協点を探る
トランプ手法は一定程度予想されたものですが、
アメリカとしても中間選挙を控え、目に見える成果を求めています。
赤沢大臣の訪米に際し、トランプ大統領自ら交渉の場に現れたサプライズは
合意のハードルが低いと見られる日本を交渉のモデルケースにしたいという
アメリカ側の強い思惑の表れでしょう。
日本は主要産業である自動車の輸出が関税により大きな打撃を受けます。
日本側の要求は基礎関税の10%は受け入れ、上乗せ分の免除という現実路線ですが、
日本は元々自由貿易を目指す枠組みTPPを主導する立場で、
この基準を基に第一次政権ではアメリカの要求をTPP並に抑え、
自動車を除き一部品目は関税撤廃を実現する事が出来ていたので、
基礎関税の10%を受け入れる事でさえ後退ではあります。
日本製鉄によるUSスチール買収問題
一方で日本製鉄によるUSスチールの買収は
日本にとってTPPに代わる強いカードになって交渉に影響を与える可能性があります。
「日本車の輸入がアメリカの雇用を失わせている」という様な
トランプが繰り返す主張に対しては
アメリカ国内に工場を作り、現地雇用を創出するなど
80年代の日米貿易摩擦の教訓から既に日本は対応済みです、
日本製鉄のUSスチール買収の意味する所は
関税を回避できる唯一の方法として、
そこからさらに進んで日本企業の米企業化です。
この買収問題は一見すると通常の企業買収ですが、
その背景にはトランプリスクを見越した、
日本製鉄が通産省あたりと共謀した官民の静かな防衛線なのかもしれません。
日本製鉄のUSスチール買収の発表は2023年12月で、
2024年の9月末までに買収を完了させる予定でしたが、
全米鉄鋼労働組合(USW)が猛反対、大統領選を前に政治問題化。
2025年年初には当時のバイデン大統領が当該買収を禁止する大統領令を決定。
これに対し、日本製鉄はUSスチールとともに
バイデン大統領などを訴える異例の展開となっていました。
日本製鉄の強気な姿勢も
退任を待つだけのバイデンにはもう力がないと判断したからでしょう。
トランプが就任後、再び「自動車関税」「雇用の奪還」カードを切ってくることは、
すでに選挙前から想定されていました。
日本製鉄はTPP同様にあくまで安全保障の観点から
日米で中国の鉄鋼大手に対抗しようと呼びかけています。
石破政権は「政府として口出しする立場にない」と民間の経済活動という建前を守りつつ、
戦略物資でもある鉄鋼をめぐる米中対立において、
アメリカの信頼を得られる布石としてこの買収を位置づけた可能性があります。
トランプ大統領の言動も当初は
「USスチールはアメリカの企業であり続ける」と前任のバイデン同様に買収に反対でしたが、
最近は日本製鉄を「パートナー」と呼び、
「買収」を「投資」と言い換えるなど態度の変化が見られます。
中国の対日融和政策
アメリカと貿易問題で激しく対立する中国は長期戦を覚悟して
全方位的なトランプ関税を切っ掛けに日本の揺れ動きを察知、
自陣に引き入れようと融和策を取り始めました。
中国の海上ブイ撤去
南シナ海で中国が一方的に設置していた水上ブイは
2月11日の尖閣諸島周辺のブイに続き、
5月28日、与那国島南方(台湾東)のブイが撤去され、
日本のEZZ内に設置されたブイはすべて撤去されました。
中国当局は予定の調査を終了したためと説明していますが、
第二次トランプ政権が誕生して、
米中貿易戦争が過熱する中で段階的な対日融和を目的としたと考えられます。
中露合同文書からの「北東アジア」削除
さらに象徴的だったのは、5月8日に発表された中露共同声明において、
「両国が軍事的な相互信頼と協力をさらに深化させ、
合同軍事演習の活動規模と範囲を拡大し、
『北東アジアの安全を維持し』、定期的に海上と空中での合同パトロールを行う」
という初期声明案の「北東アジアの安全を維持」の文言が
中国側の要請により削除されていたことです。
日本が周辺地域での中ロの軍事協力拡大に懸念を強めていることを考慮したもので
日中の関係修復の兆しとも捉えられます。
水産物輸入の再開
中国は福島第一原発の処理水放出より、
「汚染水」を公共の海にたれ流したとして、
2023年8月24日以降、日本産水産物の輸入停止措置を続けてきましたが、
ここにきて日本産水産物の輸入を
10都県を除き再開する方向で調整が進められています。
中国を見極める
立て続けに中国が対日融和政策を打ち出していますが、
何かしらの見返りを求めてくることを警戒しなければなりません。
アメリカは唯一の同盟国であり、
中国はバランスをとるような対等な国ではありません。
親中派の多い現政権はその点、非常に危うく思えます。
そもそも水上ブイも水産物禁輸も一方的に中国が始めたものです。
また、太平洋側の沖ノ鳥島北方、
日本の延長大陸棚にあるブイは未だ撤去されておらず、
中国は「沖ノ鳥島は島ではなく岩」という従来の主張を繰り返し、
国際法で認められた日本の延長大陸棚を認めていません。
EZZより日本の主権主張が弱まる「延長大陸棚」の水上ブイを撤去せず、
福島第一原発に近い福島、宮城、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、長野、新潟の
10都県を水産物の輸入再開から除外しているように
狡猾にも中国は完全にカードを手放したわけではありません。
中国のサラミ戦法には注意が必要です。
極東で広がる静かなる侵略
トランプ政権が戻ってきたことにより、
極東周辺は以前にも増して怪しい影が広がっています。
韓国で北朝鮮強硬派の尹大統領が弾劾され、次の大統領選を控える中、
左派勢力によるSNS上の言論弾圧や右派系YouTuberの不当な逮捕が行われており、
朝鮮半島はますます不安定化しています。
米朝首脳会談でトランプと対峙した北朝鮮の金正恩は
アメリカの出方を警戒しているでしょうし、この機会を逃すとは思えません。
また、日本においても元中国人である石平氏が参院選への出馬を表明して炎上し、
来年の静岡県熱海市長選に同じく
元中国人である徐浩予氏が出馬の意向を示し、物議を醸しています。
現在の戦争はハイブリット戦であり、
既に極東は戦争に突入していると見る専門家もいます。
日本の政治を動かす人物
今年の選挙は経済や食料、移民問題も含めた安全保障、
そしてその根底にある安定感のある外交ができる人が選ばれる事を切に願います。
5月30日、安倍昭恵夫人が電撃的に訪露し、
プーチン大統領と会談した事が話題になりました。
驚きを持って伝えられた昭恵夫人の訪露ですが、
まさに私が想像していた通りの展開でした。
一国の首相を差し置いて就任前のトランプと会い、プーチン大統領とも会える。
安倍外交を引き継いだのはまさに昭恵夫人と言えます。
もちろん昭恵夫人は政治家でなく一民間人であるし、
民間人であるからこそできた事でもあります。
この民間外交が日本の外交政策に直接の影響を与えるという訳ではありませんが、
実は案外、こういった個人間の繫がりや民間交流が、
世界平和のためには重要なのです。
思い返せばプーチンにウクライナ全面侵攻の機会を与えたのも
新型コロナのパンデミックという
人と人との交流が分断された時でした。
この点は、自著の出版に合わせて訪日していた
ドイツのメルケル元首相もインタビューで指摘しています。
まとめ
社会の分断は日本社会にも大きな影響を与えています。
海外の迷惑系YouTuber問題(観光・インバウンド)、
川口市におけるクルド人問題(移民)、
また選択制夫婦別姓(文化)や
皇室典範改正における女性宮家、女性・女系天皇容認(伝統)も
選挙を前に国論を大きく二分する形となっています。
対話を通して相互理解する前に、鼻から決めつけて激しくいがみ合う。
そういう光景がネットでもリアルでも見られ、
コロナ以降顕著になっていると感じます。
しかし、日本には元々「和」(WA)という概念があります。
移民問題に関しても、正式な手続きに基づき国籍を取得、
ちゃんと地域社会に溶け込めば日本に対する誤解も解消していくでしょう。
そうして組織の中で日本化する人を日本人も歴史的に受け入れてきました。
今、日本で大阪・関西万博が開かれていますが、
「いのち輝く未来社会のデザイン」を考える上でも
和の精神を日本人自身も反省し、それを世界に説くべきではないでしょうか?

(出典:Ibamoto)
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