ドゥテルテ大統領の真意。

お久しぶりです。
「暴言王」「フィリピンのトランプ」とも言われる
フィリピン新大統領ドゥテルテが来日し、
注目されているのでこれまでの情勢をまとめておこうと思います。

Flag of the Philippines

フィリピンは台湾の南東に位置する太平洋の島国です。
国名の「フィリピン」はスペイン国王のフリッペ二世から取られたように、
スペインの植民地でしたが、米加戦争に勝利したアメリカがスペインから奪い、
第二次世界大戦まで長らくアメリカの植民地でした。
第二次大戦では日本の占領下に置かれ、1943年に一度独立しますが、
アメリカが再上陸し、1946年の独立までアメリカ統治下に置かれました。
その関係上アメリカとの関係が深く、
冷戦期にはアメリカ軍基地が置かれ、今も同盟関係にあります。

米中の間にある島国の日本とフィリピンは立場の似た国ですが、
朝鮮問題を抱える北東アジアにおける強固な日米同盟に比べ
米比同盟はソ連基地のあるベトナムに対峙するものであったため、
冷戦終結を境に形骸化が進み、また火山噴火における基地の損害も重なり、
90年代に米軍撤収が始まりました。
しかし、米軍撤退を見計らったかのように中国の海洋進出が始まり、
フィリピンもパトロールが弱まるモンスーン期を狙われ、
ミスチーフ礁を奪い取られました。
小規模の海軍しか持たないフィリピン単独では取り返せません。
この筋書きは民主党政権下の普天間移設問題から尖閣問題の流れとダブります。

前アキノ大統領は同じく中国と領土問題を抱えるベトナムとともに
これまでアメリカと協力して中国に対抗してきましたが、
ASEANという大きな影響力を持つ地域連合の枠組みの中では
係争国ではないインドネシアや、中国寄りのカンボジアやラオスの抵抗もあり、
まとまったメッセージが出せない状況がありました。
しかしながらG7における日本の働きがけ
仲裁裁判所の中国の主張を退ける判決などで
国際的な中国包囲網が着々と固められてきました。

President Duterte handshake with President Xi

ところが就任したばかりのドゥテルテ大統領は
先日中国で行われた首脳会談の場で、
南シナ海問題の棚上げを宣言し、
中国からおよそ2兆5000億円の大規模な経済支援を取り付けたばかりか、
アメリカと経済的、軍事的に決別すると発言しました。
今までと180度違う態度を示したため、世界に動揺が走りました。
これまでの外交努力はなんだったのか?
ここにきて中国包囲網の一角が崩されたのです。
ドゥテルテの祖父は華僑であり、
台湾における馬英九、沖縄における翁長のように
やはり中国共産党の回し者だったのか?
しかし習近平を前にしてもガムを噛むなど
ドゥテルテの憮然とした態度も見逃せません。

これまでの過激な言動もあり、
今回の来日では安部総理との首脳会談のみならず、
天皇陛下との謁見も控えていたため
どんな非礼が行われるかとヒヤヒヤしましたが、
反米発言とは違い、日本に対してはリップサービスの連発
今回の訪日ではバランス外交が浮き彫りになり、
懸念だった天皇陛下との会見も
三笠宮殿下の薨去が重なり、急遽中止になりました。

Duterte and Abe with Philippine Delegation 20161026



フィリピンはこのまま中国に取り込まれるのか?
それとも新たなバランサーとなるのか?

どういう方向に転んでいくのかはまだ不透明ではありますが、
ドゥテルテの発言のみならず、日本のロシア重視の外交など
アメリカン・パッシング(アメリカ軽視)
アジアで広がっていることは明白です。

なぜここに来てフィリピンはアメリカに反発しているのか?
対米感情の日本とフィリピンの温度差は中国の侵略度の差です。
まだ多少のんきな日本に比べ、
フィリピンはまさに侵略を受けている最中であり、緊迫感があります。

南沙問題において尖閣問題と同様、
アメリカは当初中立の立場を取っていました。
中国を刺激するとの判断から武器輸出も慎重で、
アメリカが重い腰を上げた時には
南シナ海の多くの島が中国の軍事拠点と化しました。
アメリカ主導で航行の自由作戦が行われているものの
作戦内容は通常の航行をしているだけであり、
中国の侵略行動を抑えるには弱すぎるものです。
仲裁裁判所の判決も中国は無視する態度であり、効力がありません。
実質、南シナ海は中国の内海と化しました。

安保については曖昧な言動を取りながら
あれこれ指図してくる旧宗主国アメリカに対する
反感や失望が積もり積もって反米発言につながっているのだと思います。
とは言っても完全に関係を断ち切ることは自殺行為です。
今回の訪日を見ると
ドゥテルテは米中を天秤にかけながら、
日本でバランスを取ろうという姿勢が伺えます。
アメリカに揺さぶりをかけて
弱腰な対中戦略の見直しを迫るつもりかもしれませんが、
韓国という先例があるように、バランス外交という
一貫性のない不安定な態度は逆に付け入る隙を与える危険性も孕んでいます。
そういう意味でもアメリカとの架け橋として日本の存在が
これまで以上に高まっているとも言えます。

日本はTPP含め、
対中戦略としてアメリカを中心とした団結を呼びかけていますが、
日米サイドにフィリピンを留められるか?
それとも逆に世界的なアメリカンパッシングに乗っかるのか?

良い意味でも悪い意味でも、
フィリピンは今後のアジア情勢を左右するかもしれない
新たなプレーヤーとなった事は間違いないようです。

最新版国際関係2016

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