内戦下のシリアで2015年に消息不明となり
三年もの間イスラム過激派(ヌスラ戦線)に拘束されていた
ジャーナリスト安田純平さんが23日、無事解放されました。
命が助かってまずは一安心ですがこの件で民意は賛否両論です。
ジャーナリズムに対する考え方もありますが、
さんざん政府を批判し、再三にわたる渡航自粛要請を無視して
自ら危険地帯に飛び込んでいったのは事実なので
自己責任論が出るのは仕方ないでしょう。
安田さんの場合これが初めてではないですからね…(6回目だそうです)
左派は国と個人を分け、対立軸に起きたがりますが
国は個の集合体で、個人は国に守られているという意識が低すぎます。
(もっとも本当に韓国人のウマルさんなのだとすれば話は別ですが…)
安田さんは自分一人の責任で行動したいと
取材にはガイドを付けなかったそうですが、
本人がいくら政府の支援や保護など必要ないし関わってくれるなといっても
日本国籍を持つ日本人である限り、
海外でトラブルに遭ったら結局政府が動かざるを得ないのです。
一人の身勝手な行動により
多くの日本人が迷惑を被ることをまずは理解すべきです。
これは旅行や仕事で海外にいる日本人にも言えることですが、
海外に出れば一人一人が日本代表です。
観光地に落書したりしたら日本人全体の品格にまで影響を与えますよね?
もし安田さんがほんとに韓国人だったのだとすれば
日本人を名乗って日本の品位を下げるようなことをしてきたのですから
なおさらネトウヨ層が騒ぎ立てるのも理解できます。
こうした嫌韓思想も入り混じった自己責任論に沸き立つ世論と
「テロリストとは交渉しない」という国際的な鉄則から
日本政府も表立った行動をとることはなく、
テロリストも150万ドルから50万ドルへ身代金の値下げをする始末でした。
しかし水面下で政府が動いていたことには違いはなく、
安田さん解放で尽力したのがカタール政府とトルコ政府でした。
金銭を払うわけにもいかず、軍隊を派遣することもできない日本は
周辺国や現地の宗教家などを頼りにするしかありません。
「トルコは歴史的な親日国、アラブ諸国も含め中東は基本的に親日だし
日本に親しみを持って助けてくれたんだ。ありがたいことだ。」
こうした意見は完全な間違いとまでは言えませんが、かなり甘い考えです。
安田さん解放の裏側にはイスラム世界の抗争が見え隠れしています。
安田さんを拘束したとされるヌスラ戦線は
反ISILのアルカイダ系反政府組織で、
アメリカなどの西側諸国が支援している反政府組織の中核である
自由シリア軍の同盟組織でありながら
反米反イスラエルを掲げるイスラム過激派組織です。
そしてヌスラ戦線を支援していると噂されているのがカタールです。
今回、日本政府は身代金は支払わなかったとされていますが、
複数筋からカタールが身代金を肩代わりしたのがほぼ確実視されています。
完全に自作自演です。
なぜこんなことをするのか?
これにはイスタンブールの領事館内で起きた
サウジアラビアの記者殺害事件(カショギ事件)が絡んできます。
(出典:April Brady / POMED) |
サウジ政府に批判的な記者が何者かに殺害された事件ですが、
この件によって当事国のトルコとサウジの対立が深まっています。
トルコもサウジもスンニ派の二大国で両国ともアメリカの同盟国ですが、
トルコはイスラム法を採用しない世俗的な国で
近年はEU加盟を目指すなど欧州化に傾く一方、
サウジはメッカを有する厳格なイスラム国家です。
そして、カタールは
アラブ世界を代表するテレビ局アルジャジーラを産んだ国ですが
スンニ派のサウジとシーア派のイランに挟まれた小国です。
昨年カタールはイランに近づき、ムスリム同胞団を支援しているという理由で
サウジを筆頭にエジプト、UAE、バーレーンの4カ国と断交され、
湾岸諸国から孤立しています。(2017年カタール外交危機)
ムスリム同胞団はエジプトで生まれ
イスラム法による厳格なイスラム国家建設を目標としいる
スンニ派の政治団体で、アラブの春以降、
イスラム民主主義を掲げアラブ世界に勢力を広げており、
サウジやシリアなどスンニ派、シーア派問わず
権威主義的な独裁政権と対立しています。
イラン革命を起こしたのはシーア派であり、
イスラム過激派にも分類されないものの
アメリカは同様の反米組織であるとして警戒しています。
殺害されたサウジ記者もムスリム同胞団のメンバーだったとされ、
カタールが支援するヌスラ戦線はムスリム同胞団にルーツを持ち、
ムスリム同胞団を支援しているのがトルコです。
トルコは世俗派の国なので少し奇妙ですが、
シリア内戦において利害が一致しています。
ジャーナリストを虐殺した非人道国家と国際的批判が高まるサウジに対して
カタールとトルコが結託し真逆のジャーナリスト救出に一役買うことによって
相対的に人道国家であると国際的に宣伝することができます。
今回、日本は完全にイスラム世界の抗争に利用された形です。
中東世界は複雑です。
スンニ派とシーア派という二大宗派に加え、世俗派と厳格派の宗教対立もある。
アラブ人、トルコ人、ペルシャ人、ユダヤ人、クルド人という民族対立もある。
これが国境を跨いで存在しているので
各国家や各テロリストの間で流動的に協力と対立を繰り返しています。
アメリカは政治的にこれをうまく利用してきました。
今、再び中東が騒がしくなってきたのは
ISILの動きがロシアの空爆によって封じ込められようという中で、
トランプ大統領が米大使館のエルサレム移転を実行し、
サウジを訪れたことによってアラブ諸国の均衡が崩れ始めているからです。
アラブ諸国の連携が乱れて漁夫の利を得るのはイスラエルでありアメリカです。
アメリカはイラク戦争やシリア介入の失敗から巻き返しを図ろうとしており、
できるだけ紛争の種をまき散らして
イラン革命やアラブの春のような
反米的なイスラムによる民主化を防ぎたいのです。
一方で日本は大使館のエルサレム移転後いち早く
イスラエルとパレスチナ双方を訪れた中立の主要国です。
日本にとって中東は主要なエネルギーである原油の供給先であり、
3.11以降の反原発傾向より、その重要性はさらに高まっています。
つまり中東和平は日本の国益なのです。
しかし、見方を変えれば中東のどの勢力にとっても
日本は絶好の獲物となりえます。
カタールにとって日本は天然ガスの輸出先のお得意様であり、
今回の救出によって貿易面での優遇を迫ってくる可能性があります。
日本政府もテロリストに身代金を払えなくても
カタール政府との貿易という形であれば身代金程度の金は簡単に動かせます。
そのお金が結局テロリストに渡り、世界中の紛争に使われる事を考えるとき、
一人のジャーナリストの行動の浅はかさに
深いため息を漏らさずにはいられません。
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