トランプのエルサレム首都認定②。

President Donald Trump and Prime Minister Benjamin Netanyahu Joint Press Conference, February 15, 2017 (01)
2月15日にワシントンで行われたイスラエルのネタニヤフ首相との初の会談

トランプ以前からアメリカのイスラエル支持は伝統的なものでした。
そもそもアメリカなくしてイスラエル建国はなかったわけで、
アメリカもユダヤ資本、ユダヤ人の協力がなければ
核兵器も持てず、二つの世界戦争を勝ち残り
今の超大国の地位を築けなかったでしょう。

中東戦争において数的不利なイスラエルをアメリカは一貫して支持し、
アラブ諸国はソ連の援助を受けるなど、
当初は米ソの代理戦争(冷戦)の側面がありましたが、
アラブの盟主であったエジプトの単独講和や
シーア派のイランのイスラム革命によって
アラブ(イスラム)の連携は乱れます。
また、イラン・イラク戦争湾岸戦争など
アメリカの積極的な中東紛争の介入により、
中東地域にイスラエル優位の状況が作り出され、
イスラエルは依然東エルサレムを実効支配しており、
分割案の時点でアラブ人領土とされている地域にも侵攻、
シリア領であるゴラン高原も実効支配します。
こうしてイスラエルはその人口に対して
過剰と言えるほどの領土を手にしており、
国連はイスラエルに軍の撤退を求めています。

イラクは実際には大量破壊兵器を保持していなかったにも関わらず
疑いがあるというだけでブッシュ政権に国土が徹底的に叩かれ、
シリアやイランの核開発疑惑にも引き続き、
国際社会の強力な反発がある一方で、
イスラエルは中東地域で唯一の核拡散防止条約(NPT)非加盟国であり、
1979年には既に核兵器(ヴェラ事件)を保有していたとみられ、
国際的には核保有国とされているにも関わらず表立った批判がされません。
イスラム国家には絶対に核を持たせない。そもそもがフェアじゃありません。

冷戦の終結によって国家間戦争は影を潜め、
レバノン戦争以降はPLO(パレスチナ解放機構)によるゲリラ戦に移行しました。
1993年にはノルウェーが交渉を仲介し、
最終的にアメリカ、クリントン大統領の仲介により
イスラエルのラビン首相とPLOのアラファト議長の間で
ワシントン、ホワイトハウスで調印されたオスロ合意に至り、
イスラエルとパレスチナ自治区が相互承認
イスラエルはアラブ人地区からの撤退に同意し、
パレスチナ問題は一旦は解決の道筋が立てられました。

Bill Clinton, Yitzhak Rabin, Yasser Arafat at the White House 1993-09-13

しかし、ラビン首相が極右のユダヤ人に暗殺され、
これが引き金となりパレスチナ自治区でもテロが頻発、
イスラエル国内は右傾化し、
明文化されたイスラエル軍の撤退は白紙にされます。
またガザ地区では強硬派のハマースが政権を握ったことで
パレスチナ自治政府も二分化されます。
穏健派のアラファト議長は求心力を失いイスラエル軍に軟禁されます。
イスラエルはハマースをテロリストとしており、
レバノン侵攻ガザ空爆を行い
イスラエルとパレスチナの対立は決定的となりました。
アラファト議長は2004年に失意のうちに死去。
これにも暗殺のうわさが絶えません。
握手を交わした両陣営の二人はこの世を去り、現在オスロ合意は崩壊状態です。

第二次大戦後の主要な紛争はイデオロギー対立であり
冷戦終結をもってその多くが終息したのに対して
中東紛争は宗教・民族対立であり、むしろ冷戦終結後に表面化しました。

アメリカは2001年の9.11以降、アフガン紛争イラク戦争
テロとの戦いと称して中東に軸足を伸ばしましたが、
テロ根絶に手こずりオバマ政権になりイラク撤退を決めます。
アサド政権が毒ガスを使用したとして
シリア内戦の介入を決めたものの国際社会の反発を受け撤回。
2008年のリーマンショック以降、
アメリカの求心力は低下の一途を辿っていました。
2010年、中東でアメリカの影響力が低下するとアラブの春が起こります。
これはアメリカ、イスラエルにとっては警戒すべき現象でした。
エジプトで親米政権が倒され、かつての反米、反イスラエル政権樹立が予期され、
この民主化運動自体が、
イラン・イスラム革命の延長になる可能性さえありました。

その直後、米軍撤退という力の空白を埋めるように
イラク、シリアに突如として現れたISIL(イスラム国)
アメリカやイスラエルにとっては利用価値のある存在でした。
もともとイラクやシリアはスンナ派で世俗派が多いエジプトやトルコと違い
厳格なシーア派イスラム国家で反イスラエルの急先鋒でした。
こうした勢力を今までどおり正面から叩くのではなく、
内側から破壊するISILの存在はアメリカ、イスラエルに利するものでした。
アメリカはISIL討伐と称してイラクやシリアの空爆を行いますが、
実際にはISILではなく政府軍を攻撃し、
反乱軍やISILを支援していると言われています。
しかしながらアサド政権を支持するロシアが空爆に参加した事で
ISILの勢力は徐々に弱まりつつありました。
ようやく中東が落ち着いてきたという段階で今回のトランプの決断です。

アメリカはシェール革命のために石油利権の関心を弱め、
中東紛争からは手を引いてモンロー主義になると予想していましたが、
トランプはエネルギーに余裕が出来た事を更に利用して
新たな中東紛争を招来することで、石油価格の高騰を引き起こし、
アメリカの兵器やシェールガスを世界中に売りやすくする魂胆かもしれません。
しかし、それには対価も必要です。
そもそも9.11のテロの動機はウサマ・ビンラディンの故郷であり、
イスラム教最重要聖地のメッカのある
サウジアラビアに米軍が駐留したことが一つの要因と言われています。
今回、第三の聖地エルサレムをイスラエルの首都に認定し、
大使館が移転されればどうなるのか・・・一目瞭然です。

こうなると最大の関心は我が国のエネルギー事情です。
現在3.11以降反原発の状況に有り、
追加的に原発を開発し稼働させることが難しくなっています。
その上、化石燃料のほとんどは中東の石油に頼っている状況です。
海洋進出を目論む中国に対して
インド洋から太平洋にかけてのシーレーンを守る
インド太平洋戦略に参加するアメリカは歓迎ですが、
その大元である産油国が集まる中東で何やら怪しい動きをするトランプは
日本にとっては憂慮すべき問題なのです。

外国の首脳であるトランプを批判しても仕方がない。
アメリカはアメリカの利権のために動く、
トランプの思惑通りに
高い金を払ってシェールガスを買うという手もありますが、
それでは本当のアメポチです。
最終的に買うとなっても日本はアメリカ一辺倒ではなく、
こういう時こそロシアとの極東経済協力など多角的なエネルギー外交を進め、
外交交渉のカードにするべきです。
主権国家としてこれは当たり前のことなのです。

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