台湾総統選2024。

今年は世界的な選挙イヤーですが、
先陣を切って行われたのが1月13日に投票が行われた台湾総統選挙です。
選挙の結果、与党・民主進歩党の頼清徳氏が野党の2人の候補者を破って当選しました。
蔡英文政権で副総統を務めた頼清徳氏が
2期8年勤め上げた蔡英文総統からバトンを受け取り、
1996年に総統の直接選挙が始まってから
初めて同じ政党が3期続けて政権を担うことになります。

副總統賴清德官方肖像
当選した頼清徳新総統
(出典:總統府)
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香港の二の舞は踏まない

台湾は長らく国民党による一党独裁が続いたため長期政権を嫌い
李登輝総統による民主化以降は4年に1度総統選が行われ、
連続2期(8年)までという総統任期から
近年は8年ごとに国民党民進党の二大政党の交代が続いてきました。
今回、2016年からの民進党政権が継続され、
国民党が政権奪還できなかった要因は何なのか
今後の台湾情勢を考える上でしっかり精査する必要があるでしょう。

中国は総統選の結果を受け「主流民意を代表できない」と頼清徳氏を批判。
まともな選挙が行われない中国の発言としては滑稽にも思えます。
中国は頼清徳氏を台湾独立派の危険人物とみなし、
今回の総統選に際しても民進党が不利だとする偽世論調査を流布したり、
親中派の国民党議員を対象にした接待旅行を行ったり、
今まで以上に深刻な選挙介入を行ってきましたが、
台湾では反浸透法が2020年1月に施行されており、
これら選挙介入の多くが検挙されており、
台湾人の危機意識、台湾の防諜能力の高さを物語っています。

こうした台湾の対中警戒のきっかけは
2014年と2019年から2020年にかけて起こった香港民主化デモでしょう。
1997年にイギリスから香港が返還された際、
中英共同声明にて社会主義政策を将来50年(2047年まで)にわたって香港で実施しない
と約束したにも関わらず、2014年には声明の無効を宣言。
香港の行政トップを決める2017年の香港特別行政区行政長官選挙に介入、
中国共産党を崇めるような愛国教育を進め、
2020年には香港に対して国家安全法の導入を決定しました。
こうして一国二制度は名実共に崩壊しました。
そもそも一国二制度は台湾を取り込むために生まれた制度であり、
台湾は香港にはならないという強い意志が今回の選挙結果に反映されたのでしょう。

台湾人のバランス感覚

一方で総統選と同時に行われた議員選挙では
国民党が52議席、民進党が51議席、民衆党が8議席、無所属2議席という内訳となり、
与党民進党が過半数割れを起こし、国民党が第一党となりました。
ねじれ状態で頼清徳新総統は難しい政権運営を行っていく事になるでしょう。
行政府は引き続き民進党に任せる一方で、
立法府では国民党にストッパーになってもらうという台湾人の絶妙なバランス感覚です。

中国は台湾侵攻の準備を2027年には完成させると言われています。
人民解放軍創設100周年を迎える節目の年であり、
2022年に異例の三期目に突入した習近平の
中国共産党のトップである総書記、人民解放軍のトップである中央軍事委員会主席の
5年目の任期満了を迎える年でもあり、
四期目も狙うためには、この年までに具体的国家的成果が求められます。
それは台湾統一に他なりません。
その時の台湾は頼清徳政権という事になります。
民進党政権が続くことで中国は引き続き軍事的圧力、経済的威圧を行うでしょう。
独立志向の強い頼清徳総統の行動によっては武力衝突の可能性が高まる
中国はまさにこうしたレトリックを使って
台湾の有権者に対して戦争か平和かを迫ったのです。

こうした圧力がどの程度選挙結果に影響を与えたかは分かりませんが、
注目したいのは8議席を獲得した第三党民衆党の存在です。
民進党候補に対して国民党は民衆党に政権交代後の連立政権を呼びかけて
野党として対立候補を一本化させようとしましたが、
結局は三つ巴の戦いとなりました。
民衆党の候補だった柯文哲氏はあえて対中姿勢を明確にせず
国民党と民進党の二大政党制からの脱却を掲げ、若い層から人気がありました。
2016年と2020年の総統選では蔡英文氏が圧倒的な票で当選したのに比べ、
今回、頼永徳氏への票の多くが柯文哲氏に流れた可能性があります。
野党国民党と与党民進党の議員数の差はわずか1人であり、
今後は民衆党が政権運営のキャスティングボードを握る事になります。

一つの中国という幻想

各国が頼清徳氏の当選と台湾の民主的選挙が守られたことに祝意を表す中、
中国は内政干渉だと反発しています。
たしかに台湾は中国の一部であるという中国の主張は
国際社会でも認められている事ではあります。
実際、アメリカも台湾独立を支持しないと正式に発言しています。

ただ中国とは何を指すのかという問題があります。
中華人民共和国なのか中華民国なのか
蒋介石・国民党は国共内戦において台湾に逃れはしたが、
再び大陸に攻め込んで共産党を倒すつもりでいました。
毛沢東・共産党も台湾を取り込む機会をこれまで何度も窺っていました。
だから両陣営とも自分たちが正統な唯一の中国と言ってきたのです。
同じ漢民族であるのだからいずれは統一されなければならない。
これは同じ分断国家である韓国左派の太陽政策に近い発想であり、
大陸からの移民である外省人の流れを汲む大陸の政党であり、
親中派の野党・国民党の思想はこれに近いと言えます。

今の米台関係も第二次世界大戦から支援してきた
蒋介石・国民党との関係がベースであるため、
断交後も台湾関係法で一定の関係を維持しているものの
「台湾」としての独立は支持しないという言い方になるのです。

事態が変わったのは日本教育を受けた本省人である李登輝総統の登場です。
李登輝によって台湾の民主化が始まり、国民党の独裁が終わります。
両岸関係は分断固定化が進んだため
李登輝は国民党の党是であった「反攻大陸」を放棄し、
大陸の中華人民共和国支配を認める一方で、
台湾は中華民国と言う別の国が統治するという二国論を掲げます。
本省人にとって元から大陸に未練はありませんし、
外からやってきた国共内戦に巻き込まれているだけです。
以降、中華民国ではなく台湾という呼称が頻繁に使用されるようになり、
こうした思想の先が独立派の与党・民進党に繋がっています。

李登輝や民進党の主張は現実に即したものでしたが、
中華民国が一方的に大陸支配を放棄しただけで、
中華人民共和国にとって台湾独立は絶対に許されないのです。

中国と民族的には近いがイデオロギーを異にする蒋介石以来の外省人
日本統治時代から台湾に定住する李登輝などの本省人
こうした異なる二つのアイデンティティが台湾にはあるわけですが、
中国と台湾は朝鮮半島や香港のように陸繫がりではなく、
台湾海峡によって物理的にも隔たれています。
台湾が共産党の支配下になったことは歴史上一度もありません。
中国とは政治機構も違えば法律も違う、軍隊も違うし、パスポートだって違います。
「私は日本人だった」という年配の本省人はいても
自分たちが中国人だと自認する人はほとんどいません。完全に別の国なのです。
国民党の馬英九元総統が選挙期間中海外メディアで
「習近平を信じるしかない」と発言し不評を買ったように
基本的に民進党も国民党も民衆党も
中国共産党に取り込まれることは良しとしていません。
台湾民衆の多くは台湾人として現状維持を願っています。
つまり台湾は独立しようとしているのでなく、すでに独立国家なのです。
逆説的に言えば中共にとっては現状維持も独立と同義です。
一つの中国は政治的要因で生まれた幻想であり、実像ではないのです。

しかしながら独立国家の担保をアメリカでさえ保証してくれない。
これは台湾の悲劇であり、日本にとっても大きな問題です。
アメリカができないなら
旧宗主国の日本がより積極的に台湾防衛にコミットするべきです。
日本はアメリカに追随し、中華人民共和国と国交を結び、中華民国と断交しましたが、
一つの中国を「理解し、尊重する」という表現に留めており、
サンフランシスコ平和条約で台湾の領有権を放棄しましたが、
台湾の施政権まで決めている訳ではありません。
実際に麻生副総理は訪米先で
「台湾有事は日本の存立危機事態だと政府が判断をする可能性が極めて大きい」
「台湾有事には集団的自衛権を発動する」
と発言し、
同盟国アメリカに日本の立場を留意させ、中国をけん制しました。

世界の選挙への影響

中共の介入があったもののまずは台湾が無事選挙が終えました。
親日政権が続くので日本にとっては良いことですが、
台湾自身は行政府と立法府でねじれ状態で難しい政権運営が続くでしょう。
極東では4月の韓国総選挙があり、日本でも年内に衆議院選挙が行われる可能性があります。
韓国では野党の「共に民主党」代表の李在明が1月に暴漢の襲撃に合い首を負傷、
日本でも2022年の安倍総理暗殺事件
2023年の岸田総理襲撃事件と立て続けに選挙中の暴力が続いています。
また裏金問題から台湾と関係の深かった安倍派議員が失脚しており、
こうした迷走する政治を見て中共や北が介入してくるかもしれません。

台湾の投票率は71.86%と非常に高く、
中国の工作に対して投票によってその民意を内外に示しました。
衆議院選挙は日本にとって今後の10年を決める大事な選挙になります。
強固な民主主義を維持するためにも台湾を見習う必要があるでしょう。

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