トランプ大統領とアメリカ帝国の崩壊。

アメリカ大統領選、
共和党のトランプ候補の人種差別発言、セクハラ問題、
民主党のヒラリー候補のメール問題、健康問題など
最後の最後までスキャンダル合戦でしたが、
トランプの勝利という結果になりました。

Donald Trump Rally 10-21-16 (29849627834)
(出典:Michael Candelori)

国務長官を務めるなど政治経験の豊富なヒラリーは
ファーストレディー経験者
現職のオバマ大統領他、全米のほとんどのマスコミが支持していました。

日本のマスコミも終始トランプ批判、ヒラリーの勝利を確信していました。
泡沫候補扱いだったトランプの勢いが増すとざわついてみせるものの、
その過激な発言もあり、ワイドショー的に盛り上げるだけで、
結局なんだかんだでヒラリーが勝つだろうという楽観的な見方が強かったのです。
当然この結果に驚きの反応を示していますが、
個人的には「やはり・・・」といった感じです。
日本の報道はトランプ支持の背景や考察が甘すぎます。
トランプ大統領誕生に至る要素を思いつくだけ記してみます。

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①人種差別発言は実際大したことがない

(移民問題とテロ)
まず日本だったら支持を得ないであろう人種差別的発言ですが、
アメリカの人口の約8割がWAPSと呼ばれる白人で、
黒人やその他の人種は2割に過ぎません。
そしてアメリカ国内の人種差別意識は
パリ同時多発テロなど移民政策により引き起こされた
イスラム過激派のテロなどにより先鋭化
されています。
アメリカは移民国家であるため、
潜在的にヨーロッパの現状が未来のアメリカとなるという不安があります。
雇用問題も含め、アメリカ国民の多くが声を大にしては言わないが、
内にトランプ支持を秘めていたことは容易に想像できます。
ヒラリー派は過激発言に加え、セクハラ問題などで
大統領としての資質、トランプ候補の人格を疑う個人攻撃に終始しましたが、
ヒラリーのメール問題の方が
国家機密に関わる重大問題だったのではないでしょうか?

②ビジネスマン・トランプと政治屋批判

(外交・経済問題)
トランプは政治経験がないもののビジネスマンとしては多大な成功を収めた
アメリカン・ドリームの象徴的人物です。
世界大戦以降、自由経済で世界をリードしてきたアメリカですが、
世界全体の流れを見ると
なんだかんだでEUに残るだろうと思われたイギリスがEUを離脱したり、
中国と対立するとみられたフィリピンが手のひらを返すなど
「まさか」が現実になる展開が続いています。
この原因は世界同時不況以降のアメリカの弱体化にあります。
世界同時不況によってドルの信用は失われ、
相対的にロシア、中国が頭角を現しました。
オバマ政権はTPPによって日本を取り込む事で
巻き返しを図ろうとしていますが、国内外で批判も多いのが現状です。
ロシアによるクリミア併合、ウクライナ内戦、
中国による南シナ海、東シナ海の海洋進出、
ISIL、アサド政権、反政府軍の三つ巴のシリア内戦、
2010年代の主要な紛争に尽くアメリカは負け続け、
求心力は低下の一途をたどっています。

オバマ大統領は「アメリカは世界の警察じゃない」と発言し、
パクス=アメリカーナ(アメリカによる平和)の崩壊は決定的となりました。
撤退したイラクでは多くの若者が実利のない戦いに命を落とすばかりか、
力の空白にISILという新たな勢力を生み出す結果になりました。
この外交的失敗は民主党オバマ政権批判にとどまらず、
共和党ブッシュ政権まで遡って政治屋全体の嫌悪感に繋がっています。
ヒラリーはこれまでの政権運営を担ってきた主要人物であるため
数々の経済的成功を収め「強いアメリカの復活」を謳うトランプが
支持を集める結果になったのではないでしょうか?

③シェール革命

(エネルギー問題)
世界に広がるテロによって移民規制、保護主義は全世界で広まっており、
トランプもイスラム教徒入国禁止メキシコ国境に壁を作るなどと発言し、
TPPに反対、在日米軍含め多くの駐留米軍の撤収を示唆しています。
移民と自由経済で成長してきたアメリカにとって
一見相応しくない政策にも思えます。

EIA World Shale Gas Map
シェールガス層の分布

この背景にはイラク撤退と同時期に起きたシェール革命があります。
世界第一位の経済大国で世界一のエネルギー消費国であるアメリカは
これまで石油利権の確保のためイスラエルと協力して中東に介入してきました。
しかし、北米でシェール革命が起き、
アメリカはエネルギーを自給自足できるようになりました。
つまり中東に介入する必要がなくなり、
インド洋から太平洋にかけての制海権の重要性も低下しました。

そのため国外のエネルギー利権の関心を弱めると同時に
世界各地の同盟国とも今までのような強い関係からは距離を置き、
中立なモンロー主義的政策に転じて
原油・天然ガスのロシア原子力発電を推し進める中国などをライバルに
安全保障をちらつかせて
同盟国にシェールガスを高値で売りつけるつもりでしょう。
ここで力を発揮すると期待されたのがビジネスマン・トランプという事です。

高騰していたのもいつの日か、
シェール革命によって原油安の状況が続いています。
サウジなどの中東の産油国は用なしと見て
アメリカに見捨てられるかもしれません。
こう考えると世界を反原発に先導した福島原発事故もきな臭く感じます。

「アメリカ帝国の崩壊」

いずれにしても超大国としてのアメリカは斜陽の時代に入るでしょう。
既に全米で反トランプデモが多発しているように
移民国家アメリカは
オバマという象徴的な黒人大統領の誕生をピークに後退に向かい。
アメリカ国内で民族間による対立が再び起こるのではないでしょうか?
オバマは銃規制を訴え、
広島を訪れたアメリカが生んだ最後の良心としての歴史が残り、
トランプ政権ではベトナム戦争、公民権運動など
60年代のような混沌とした内向き傾向になる予感がします。

興味深いのはアメリカの多くの若者はヒラリー支持だった事です。
イギリスのEU離脱、大阪都構想の否決も決めたのは年配者の投票でした。
これは将来起こりうる改憲の国民投票の参考になるかもしれません。

「日本も自主独立するしかない」

ここまで書いていくと
あのフィリピンのドゥテルテ大統領のバランス外交
実は理にかなっているのではないかとさえ思えてくるはずです。
他でもない我が国もアメリカの方針転換による影響は甚大です。
日米関係を心配する声が大きいですが、
政治は常に大局を見る必要があります。
第二次安倍内閣当初からロシア重視の外交を行い、
TPPの国内批准を急いだのも
トランプ大統領の誕生を見越しての事ではないでしょうか?
日本も口では「日米同盟を外交主軸とする」とは言いつつも
自主独立に向けた多極外交を展開しています。

トランプがシェールガスを売り込む前に
欧米から経済制裁を受けている
ロシアとの平和条約を目指してプーチンに経済協力を提案し、
いずれトランプ政権で否決されるTPPを
アメリカを差し置いて先に批准を行うことによって
オバマとの約束を守ることができれば
アメリカに対するアドバンテージもできます。
ロシアであれ、アメリカであれ
日本外交のポイントはエネルギーの確保と中国の侵略行動を抑える事です。
安部総理は早速17日に大統領就任前のトランプと会談する予定で
早い段階で今後のアメリカを見極めたいのでしょう。

年末のプーチンとの首脳会談。
そして来年以降の日米関係は注視する必要がありそうです。
トランプ相手にどう戦うか?日本外交の真価を問われます。

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