サウジとイランの対立が表面化してきました。
スンナ派が多数派のサウジが
シーア派の指導者をテロ容疑で処刑したのが発端であり、
シーア派が多数派のイランで
サウジ大使館が襲撃され国交断絶と一気に加速していきました。
宗教対立が根本である事は明白です。
サウジとイランの国交断絶は周辺地域に波紋を広げ
中東全域でスンナ派、シーア派両陣営の対立が強まっています。
宗教観の薄い日本だと
こうもすぐ熱くなってしまう中東の状況に理解できないかもしれません。
良い機会なので、ここでイスラム教のおさらいです。
サウジアラビアもイランもイスラム教の国ですが、
サウジアラビアはスンナ派(スンニ派とも)でイランはシーア派の国です。
宗派が違います。
イスラム教とキリスト教、イスラム教とユダヤ教の対立は
まだ理解されていると思いますが、
このようにイスラム教徒同士でも深い対立の歴史がありました。
何が違うのか?なぜ争うのか?
端的に言えば
イスラム教の創始者ムハンマドの後継者争いです。
ムハンマドの死後その後継者をカリフと定め
他地域の布教を目的にジハード(聖戦)が行われ
イスラム帝国が形成されますが、
後継者争いの中でウマイヤ朝という世襲制王朝が誕生すると
ムハンマドの甥アリーとその子孫だけを指導者とする
急進派の「シーア派」が誕生し、
体制派「スンナ派」と教派が二分されます。
スンナとは慣習の事で、
スンナ派はムハンマド時代のしきたりを守ります。
なのでコーラン(神の言葉)やスンナ(ムハンマドの言葉)は揺るぎませんが、
シーア派はイマーム(指導者)がムハンマドと同等の権利を持つため、
スンナの変更がイマームによって行われる事が可能です。
このためスンナ派とシーア派では
イスラム法の内容自体が変わってしまっています。
スンナの変更をしーや(シーア)と肯定するのがシーア派、
スンナの変更をすんな(スンナ)と否定するのがスンナ派と覚えましょうw
中東全体で言うとスンナ派は多数派でサウジの他、
北アフリカからインドネシアまで多くの国家があたります。
シーア派はイラン、イラクなど少数派です。
西洋的現代社会では政教分離が基本となっていますが、
イスラム社会において政教分離はありえません。
イスラム教徒にとってイスラム法が宗教から政治、経済、社会の全てなので
この問題は大変重いのです。
西洋法における禁止と義務の体系は人の作ったものであり、
国や地域によってバラバラですが、
イスラム法は、ワージブ(義務)、マンドゥーブ(推奨)、
ハラール(許可)、マクルーフ(忌避)、ハラーム(禁止)と
さらに細分化された神によって作られたものであり、
イスラム教徒は
どの国にいようがこの法律でしばられています。
なのでイスラム国家に西洋的国際法を無理やり適用して
女性の権利や人権侵害を批判をしても無意味なのです。
イスラム諸国においてもイスラム法の扱いは様々です。
トルコはイスラム教徒が多数派ですが世俗的な国で
憲法によって政教分離が明記され、イスラム法を適用していませんが、
サウジアラビアとイランは特に厳格なイスラム国家です。
サウジアラビアはメッカを有するスンナ派の盟主である一方、
イランはイスラム革命を起こしたシーア派の盟主なのです。
しかし、あのフセイン大統領がイラクでは少数派のスンナ派だったり
一つの国でも混在しているため、中東紛争の原因となってきました。
これは植民地時代に欧州列強が人種や宗教を無視して
国境線(サイクス・ピコ体制)を引いた名残です。
特にアメリカは今までこれをうまく利用してきました。
イラン・イラク戦争ではシーア派のイスラム革命を阻止するために
スンナ派のフセインを利用してイランを叩き、
イラク戦争ではフセインを倒すためシーア派の反体制派を支援しました。
この構造は今のシリア内戦においても同じです。
シリアはスンナ派の国ですがアサド政権は
イスラム教でも少数派のアラウィ派でシーア派の一派とされています。
なのでアサド政権はシーア派のイランが支持し、
反体制派はトルコやサウジなどスンナ派が支持しています。
そして実は「イスラム国」(ISIL)もスンナ派を標榜しています。
「イスラム国」はシリアからイラクへと勢力圏を広げているので
イランは明確に反ISILを掲げていますが、
サウジ含めスンナ派の多くのイスラム国家は表立った批判をしていません。
ISILはサイクス・ピコ体制を否定し、
イスラム(スンナ派)による統一国家を目指しています。
つまり、この宗教対立で
漁夫の利を得るのはISILなのです!
私はISILの背後にアメリカ、イスラエルの存在を感じているので
アラブの春によって後退した中東支配を
ISILを作り、宗教対立を加熱させることで再建する動きだと思います。
シリアで決着がつかないうちにイランまで叩こうというのは意外ですが、
イランの後ろにはロシアがいることも忘れてはなりません。
ウクライナで包囲され、シリアで追い詰められているロシアにとって
イランは絶対守らなければなりません。
サウジとイランの対立が
第三次世界大戦の引き金になることは十分に考えられます。
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