2021年8月15日、76回目の終戦の日を迎えたこの日、
アフガニスタンでタリバンが首都カブールを制圧し、全土を支配下に置きました。
2001年9月11日のアメリカ同時多発テロの実行犯である
ウサマ・ビンラディン率いるイスラム過激派テロ組織アルカイダを匿っているとの理由で
ブッシュ政権時米軍の侵攻を受けて始まったアフガニスタン紛争ですが、
最終的にはタリバン(アフガン)の勝利という結果に終わりました。
2001年の10月7日から空爆が始まり、11月14日には首都カブールが陥落、
ブッシュ政権は短期間でタリバン政権が崩壊したことに満足して
戦後の国家建設や治安維持を国連に丸投げ、
2003年にはフセイン政権がアルカイダと関係していると因縁をつけて
イラク戦争に軸足を移そうとしていました。
2004年にアフガンで民主政権が発足したものの、2006年頃に治安が再び悪化、
2009年、イラク完全撤収を公約に発足したオバマ政権はアフガンの米軍増派を決定し、
国境を越えて隣国パキスタンへの攻撃を開始。
2011年にアルカイダのウサマ・ビンラディンをパキスタン国内で殺害、
2015年にはタリバンのムハンマド・オマルの死亡が発表されるなど
相次いでテロ組織の主導者を排除したものの
テロリズムを完全に根絶する事はできませんでした。
2017年に発足したトランプ政権では
エルサレム首都認定やイラン核合意の離脱など
親イスラエルカラーを前面に出しつつも中東の軍事介入には否定的で
2020年のドーハ合意でタリバンとの和平が成立。
合意に基づき2021年内のアフガニスタンからの完全撤退を決めたアメリカ軍ですが、
その力の空白をアフガン政府が埋めることはできませんでした。
2月に4月撤退が延期され、4月には9月撤退を発表しましたが、
6月13日、タリバン政権崩壊後、
初めてタリバンの支配地域が政府軍を上回ると、
タリバンの攻勢に押されるかの如く7月に急遽、8月末までの撤退を発表。
足早にアフガンを撤収する米軍の映像は
まさにベトナム戦争におけるサイゴン陥落同様、
アメリカの完全敗北を印象付けるものです。
バイデン政権は撤退を正当化し、
カブール陥落の責任をタジキスタンに亡命したアフガン政府に押し付けています。
止まらないアメリカの弱体化
象徴的な9.11の同時多発テロを受けて
2001年の対タリバン政権のアフガン紛争介入、
2003年の対フセイン政権のイラク戦争開戦によって
新しい戦争(テロとの戦い)を始めたアメリカですが、
2010年のアラブの春、2011年のイラク完全撤退、その後のISILの勃興、
2013年の対アサド政権のシリア軍事介入の撤回、
2014年のロシア・プーチン政権によるクリミア危機、
2015年の中国・習近平政権による南シナ海(人工島)問題、
2017年の対金正恩政権の北朝鮮危機、
2020年の対イスラム革命防衛隊のイラン危機…どれにも勝利はありません。
今回はその始まりの地であったアフガンから完全撤退したのです。
アメリカの弱体化は誰の目にも明らかでしょう。
9.11以来20年に渡り繰り広げられた「アメリカ最長の戦争」、
ベトナム戦争の時もそう呼ばれていたと記憶していますが、
このテロとの戦いにおいて何を勝利とするのか?
ウサマ・ビンラディンの殺害によって
9.11 の報復という点では体裁を保つことが出来たと言えますが、
今までのアメリカ軍の努力と犠牲に見合うだけの成果があったのか?
と問われると厳しいところでしょう。
ドローン(無人機)による要人の殺害は
アルカイダのウサマ・ビンラディン(2011年)に始まり、
ISILのバグダーディー(2019年)、
イスラム革命防衛隊のソレイマニ将軍(2020年)など
アメリカ軍が積極的に行っていますが、
こうしたピンポイント攻撃は一般市民を巻き込まないという
人道的な視点では有効な手法ですが、
テロを根絶するには弱すぎると言えるのかもしれません。
その意味ではイスラエルのガザ空爆のような
大量殺戮が伴う大規模な攻撃の方が効果があるのかもしれませんが、
それに関してもテロ組織の意志をくじくことには成功していません。
そもそも武力によって相手の考え方を変えさせようという事自体が
傲慢で間違った考えだと気付くべきです。
よい戦争とわるい戦争
アメリカでは第二次世界大戦を「よい戦争」、
ベトナム戦争を「わるい戦争」と呼ぶようですが、
アフガン紛争もイラク戦争も今後「わるい戦争」に数えられるでしょう。
9.11を「真珠湾」と同一視し、飛行機の自爆攻撃を「神風」に準え、
世界貿易センタービルの跡地を本来、
広島と長崎の爆心地を指す「グランドゼロ」と命名。
イラク・イラン・北朝鮮を悪の枢軸と呼び、
アメリカは新しい戦争を第二次世界大戦の成功に結び付けようとしましたが、
第二次世界大戦ではアメリカの軍事力による破壊だけでなく、
その後の経済支援による再生と同盟による安全保障体制によって
ドイツも日本も豊かになったから良かったのであって
それは枢軸国が元々アメリカと価値観を共有する
文化的素養や社会経済の基盤があったからです。
共産主義やイスラム主義の途上国に強引に当てはめたのが失敗だったのです。
その意味では日本があとちょっとの差で狂信的な思想に捕らわれて
一億玉砕の本土決戦が実行されれば結果が変わっていたかもしれません。
軍事力の敗北
テロリズムという手法は断固として賛成しませんが、
アフガニスタンはソ連にもアメリカにも打ち勝つ事に成功しました。
フランス・アメリカ・中国を退けたベトナム同様に
その鋼の意志は日本も参考にするべき所があります。
これらの事実は圧倒的な軍事力をもってしても戦争には勝てないことを証明しています。
ミャンマーの軍事政権同様、
力による政権奪還は国際社会には認められないと言われていますが、
ソ連もベトナムもイスラエルや満州国でさえ多くの国から国家承認されました。
武力を否定してるのか容認してるのか
何か矛盾したダブルスタンダードだと誤解されかねないですが、
前提としてその国に合った政治制度、文化様式、宗教哲学があると思います。
それを国民が支持するか否かの問題であり、
支持されたなら徐々に国家は安定し固定化されますが、
支持されなければ、もしくは他国の妨害があれば混乱は続きます。
意図的な他国の妨害こそ非難されるべきであって
その国で生きる人々の総意によって政治選択がされるべきです。
タリバン政権を認めるか否かはアフガン人の問題であり、
2001年のタリバン政権崩壊から20年の長い歳月を経ても何も変わらず、
アメリカ軍の援助を受けたにも関わらず
あっけなく政府軍が敗走し、政府は民衆を置き去りにしてさっさと亡命、
タリバンが返り咲いたことを考えればその答えも分かるという話です。
アメリカは現在、ベトナムとも友好関係を築いていますし、
オバマ政権ではキューバの雪解けもありました。
今ゴールが見えなくても、最終的にその時々の時世によって解決される問題も多いのです。
昨今、どう考えてもアメリカの中東政策は潮目を迎えています。
中国は我先にタリバン政権を承認、
アメリカもタリバンをいつまでも敵視するわけにはいかなくなるはずです。
日本は何を教訓とするのか
日本に目を転じて、
もはや惰性で続いているかのような毎年の全国戦没者追悼式ですが、
遺族の高齢化が進み若者中心に歴史の風化が始まっているのも事実でしょう。
それは国家として式典の意義を見失っているからです。
戦争の記憶は引き継ぐ必要がありますし、
再び戦争の惨禍を繰り返さない努力は続けなければなりませんが、
戦争責任を次世代に引き継がせようというような空気感が
若者の重荷になり、関心の無さに繋がっています。
今回のタリバンの復活を見て分かるように
最終的な勝利は軍事力では決まらない事は明らかであり、
日本の誇りを回復する事を目的としなければ
本当の意味で戦没者は報われないという事を
奇しくも同日となった二つの終戦の日を通して考えさせられます。
もちろん日本は大東亜戦争において
アメリカの軍事力だけでなくその文化力に圧倒されたのは事実ですし、
皇国史観を持っていたとはいえ、
既に政教分離が当たり前だった日本が
戦後、アメリカ文化を受け入れることを良しとした背景があり、
政教一致のイスラム国家であるアフガンとは状況が違います。
そして戦前日本の全てが正しかったというつもりもありません。
しかし、国家の核の部分をしっかりと捉えない限り、
日本は本当の亡国になってしまうでしょう。
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