連日、北朝鮮問題が報じられる中、
中東で新たな火種が生まれようとしています。
トランプ大統領が突如、エルサレムをイスラエルの首都と認定したのです。
これの何が問題なのかはイスラエル建国の歴史を遡らなければなりません。
イスラエルは第二次世界大戦後、
アメリカをはじめとする戦勝国(国連)によって
ナチスの迫害から逃れた亡国の民ユダヤ人の国家として
パレスチナ地域に作られた人工国家です。
なぜパレスチナにイスラエルが作られたかというと
古代にヘブライ王国(イスラエル王国、ユダ王国)があった場所で、
ユダヤ人の伝統的な故郷と信じられてきたからです。
特にエルサレムはかつての首都に当たる場所で
エルサレム神殿のあったユダヤ教最重要の聖地です。
しかし、アラブ人にとっても
メッカ、マディーナに次ぐイスラム教第3の聖地であり、
古代という遥か昔にユダヤ人はパレスチナから追い出され、
以降、第一次大戦後にイギリスが領有するまでの長期間、
イスラム帝国やオスマントルコなどの
イスラム国家がパレスチナを支配していたため、
既に何代にも渡り圧倒的多数のアラブ人が住んでいました。
またエルサレムはイエスの処刑された場所でもあり、
ヨーロッパ人にとってもキリスト教の聖地です。
中世の十字軍はまさに
エルサレムをイスラム帝国から奪還するために行われてきました。
このようにエルサレムはユダヤ教、イスラム教、キリスト教、
全てのアブラハム系宗教の聖地であり、
パレスチナは地中海東岸に位置し
ヨーロッパ、アジア、アフリカの丁度中間に存在する要衝の要でもあり、
歴史的にこの地域を治めるために数々の戦いが繰り広げられてきました。
現在のパレスチナ問題の直接の原因がイギリスの植民地政策における
二枚舌(三枚舌)外交であることは以前記事にしましたが、
(キリストとイスラム対立の歴史参照)
結局、相次ぐユダヤ人(シオニスト)によるテロに
イギリス政府はお手上げ状態となり、
国連に提起し、パレスチナ問題を丸投げします。
国連ではイギリスの委任統治終了後に
パレスチナにユダヤ人とアラブ人の二国家を建国し、
エルサレムを特別な都市とするパレスチナ分割決議が採択されます。
その内容はパレスチナの56%をユダヤ国家、43%をアラブ国家とするもので
ユダヤ人がハイファやテルアビブなどの大都市
およびその間の肥沃な平野を手に入れたのに対して
アラブ人が与えられたのはネゲヴの砂漠地帯でした。
ユダヤ国家とされた地域の人口比率は
ユダヤ人が55%、アラブ人が45%とユダヤ人が若干優位な程度でしたが、
アラブ国家とされた地域にはもともとユダヤ人はほとんど存在せず、
ユダヤ人1%に対しアラブ人人口は99%を占めていました。
ユダヤ人側の領土の方が大きいのは、
その後もユダヤ人の入植が続く事が想定された事もありますが、
人口比から言って明らかにユダヤ側に優位な分割案でした。
この結果多くのパレスチナ難民が生まれることになります。
決議に賛成のユダヤ陣営、反対のアラブ陣営
両陣営ともロビー工作が行われましたが、賛成多数で採択されました。
賛成は欧米諸国が中心で、
当事国である中東諸国の大半が反対しました。
(※敗戦国の日独はまだ国連加盟していません)
特にアメリカは最大のユダヤ人居住国家であり、
ニューヨークを中心にロックフェラー財団を始めとする
ユダヤ資本が浸透しており、
アメリカ大統領選を優位に進めるためにもユダヤ人の票が重要であったため
当時のトルーマン大統領をはじめ
歴代大統領はその後もイスラエル支持を続けます。
もちろんこれには石油利権も絡んでいます。
ユダヤ側はこの分割案に則り、アラブ側の合意が得られないまま
イギリス委任統治終了後、速やかにイスラエルの独立宣言を行います。
分割案に反対する周辺のアラブ諸国は即座にイスラエルに宣戦布告し、
エジプト側からは現在のガザ地区に、
ヨルダン側からは現在のヨルダン川西岸地区に侵攻、
イスラエル建国の1948年からエジプトと和解する1973年の間に
4次に渡る中東戦争が断続的に行われました。
第一次中東戦争後の休戦協定により
エルサレムは西側をイスラエル、東側をヨルダンに分割占領され、
1950年にイスラエル議会によりエルサレムの首都宣言が出され、
テルアビブの首都機能を西エルサレムに移転。
その後、1967年の第三次中東戦争でイスラエルが東西ともに占領し、
1980年には、改めてイスラエル議会により、
統一エルサレムはイスラエルの永遠の首都とされますが、
国連は東エルサレムの占領を無効とします。
こうしたことでイスラエル自体はエルサレムを首都としながらも
国際的には首都とみなされず、
多くの国ではテルアビブに大使館を置いています。
アメリカは共産党、民主党共にエルサレムをイスラエルの首都と認めており、
1995年には議会で大使館のエルサレム移転を認める法律を可決しましたが、
これまで中東和平の妨げになるとして実施を延期してきました。
トランプは大統領選の時点で大使館移転を公約の一つに掲げ、
これまでも初の外遊先で現職大統領としては初めての嘆きの壁を訪問し、
オバマ政権で冷え込んだイスラエル関係の修復を図り、
親イスラエルを鮮明にしていました。
嘆きの壁を訪れたトランプ大統領 |
また、イスラエルとパレスチナ自治区の
二国家共存をも拘らない姿勢を見せるなど、
一方的にイスラエルを支持するような発言を繰り返しています。
このトランプの方針は国連などの国際社会や
仲介役としてのアメリカの努力や知恵を無に帰する行為であり、
トルコやサウジアラビアなど親米的なイスラム教国も含めて
中東(アラブ)諸国の不用意な反発を招くことは必至です。
トランプ大統領の上級顧問で娘婿のシュクナー氏が熱心なユダヤ教徒であり、
そのことが今回の決断に影響したのだとすると
大統領職権の乱用とまで言えそうですが、
それは表面的な部分の気もします。
この決断の背景について次回、さらに深く掘り下げようと思います。
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