自由で開かれたインド太平洋戦略。

11月5日の初来日を皮切りに
韓国、中国、ベトナム、フィリピンとアジア5ヵ国を訪れた
トランプ大統領のアジア歴訪は
もちろん第一に北朝鮮問題があるものの
アメリカのアジア戦略を決定づける旅だったのではないかと思います。

そもそもトランプ大統領は主だった政策というとTPP離脱ぐらいで、
アジアに関して強い関心を寄せてきませんでした。
選挙期間中、トランプはアメリカファーストを掲げる一方で、
「日本韓国など守ることはできない」と発言し、
対北朝鮮において日韓の核武装を容認する発言も飛び出し、
モンロー主義(孤立主義)を感じさせました。
今回のアジア歴訪はこういった疑念を払拭し、
アジアの安全保障に引き続き関与していく意志表明だったと思います。

この旅を通してトランプ大統領がキーワードとして繰り返し
演説で口にしたのがインド太平洋戦略です。
それまではAPECを始めアジア太平洋という枠組みがありましたが、
この地域統合のリーダーシップは近年アメリカから中国へ移っていました。

中国はその経済力と軍事力を持って、米中2大国時代を目論み
習近平はオバマ大統領に「太平洋を分割しよう」と持ちかけ、
空母を開発し、南シナ海や東シナ海(尖閣諸島)など海洋進出を進めながら
AIIB一帯一路でヨーロッパからアジアまでその経済圏を広げ、
東南アジアや東アフリカをも囲おうという勢いでした。
中国はAIIBや一帯一路を軍事利用することを公言しています。
これに対して日米はTPPを主導して
環太平洋という枠組みで対抗するつもりでしたが、
早速トランプ大統領が離脱を発表したため、頓挫しています。

こうした中で新たに出てきたのが「自由で開かれたインド太平洋戦略」です。
中国が主張する一帯一路シルクロードを意識した
ランドパワー的な経済圏構想とすると
「インド太平洋戦略」は米国、日本、豪州、インドが中心の
シーパワー的な経済圏構想です。
「自由で開かれた」というのは
明らかに海洋進出を目論む中国を念頭に置いたものであるし、
アジアではなくインドを強調させることによって、
環インド洋の支配権(真珠の首飾り)を目論む中国を押さえ込むという
中国包囲網をより明確にしています。

しかし最も重要な事は「インド太平洋戦略」を提唱したのは
アメリカのトランプ大統領ではなく、
日本の安部総理だと言うことです。
アジア歴訪の最後の訪問地フィリピンの米比首脳会談
当初反米主義の暴れん坊というイメージの
ドゥテルテ大統領と会うことに難色を示していたトランプを説得し、
引き合わせたのも安倍総理と言われています。

Donald Trump and Rodrigo Duterte in Manila

海洋進出を強める中国に対して
日本と似た立場であるフィリピンとアメリカが協力することは
日本の国益でもあります。
トランプ政権にアジア政策の識者がいないという問題もありますが、
このように安部総理が実質的にトランプ政権のアジア政策担当
と言えるほどの影響力を見せている状況にあります。

Shinzō Abe and Donald Trump in Washington, D. C. (5)
(出典:首相官邸)

シェール革命を起こし、エネルギーに余裕のあるアメリカと違い、
日本は3.11以降反原発の影響もあり、
中東の石油エネルギーの需要が高まっています。
インド洋、太平洋に跨るシーレーンはまさに日本の命綱です。
なので中国の海洋進出問題はアメリカ以上にシビアな問題なのです。
日本としてはアメリカのいち早いTPP復帰が対中戦略で重要と見ていますが、
貿易赤字改善を第一とするトランプが首を縦に振らないので、
その代わりに日本の「インド太平洋戦略」に
参加する事を誓約したのではないでしょうか?

安部総理はロシアのプーチン大統領、インドのモディ首相、
フィリピンのドゥテルテ大統領などとも友好的な関係を築いていますが、
これほどまでに
アメリカ大統領を手懐け動かすほどの人物がかつて日本の宰相にいたでしょうか?
もちろん大統領就任前に他の首脳に先駆けて、
いち早くニューヨークを訪れ非公式に会談をするなど
安部総理が積極的に動いて信頼関係を構築してきたこともありますが、
個人的には前オバマ政権の要求を飲みTPP参加を決め、
アメリカに先んじて国内批准を進めた日本に対しての責任もあったと見ています。
これを見越して国内批准を強行したのなら安部総理は
単なるアメポチや人たらしではなく、かなり狡猾だと言えますし、
政権が変わっても国家としての責任を感じる
トランプも真っ当な政治家と言えます。
流石に慰安婦合意を反古にするムンジェインとは格が違いますね・・・(;^ω^)

朝鮮半島情勢が緊迫しているという状況もありますが、
こうした日本政府の行動によって中国の対日戦略も緩和しています。
11日ベトナムのダナンで行われた日中首脳会談では
今まで見たこともない笑顔で安部総理と握手をする習近平主席がいました。

Shinzō Abe and Xi Jinping (November 2017)
(出典:首相官邸)

党大会が成功裏に終わり権力基盤が盤石になったから
反日を前面に出す必要が無くなっただとか、
一帯一路に日本を誘いたいからだという意見もありますが、
これは日本が主導的に対中包囲網を構築しアメリカをも動かしつつある現状に
中国共産党も危機感を抱いているからではないでしょうか?

基本的に中国はアメリカとは事を荒立てるつもりはないが、
域外国だとしてアメリカをアジアから排除したいと思っていますし、
日米同盟を瓦解させようと企み、
明確に域内国である日本を敵と見ています。
これに対して日本は引き続きアメリカを地域に置くことで
中国に対抗しようとしています。
北朝鮮問題はアメリカの目を極東に向かせることに繋がっていますが、
なかなか制裁に動かない後ろ盾の中国に対して
インド太平洋という新たな戦略を加えることで
さらなるプレッシャーを与えているのです。
ピンチをチャンスに変えるというのはまさにこういうことだと思います。

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