米朝首脳会談で見えてきた対中戦略

米朝首脳会談が終わり、アジアの冷戦終結に向けスタートが切られました。
「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)
明文化されなかったこともあり、
北朝鮮が再び合意を反故にする可能性もあり、
何がどう転ぶか不透明な部分が多いものの
北朝鮮の核廃棄と引き換えに在韓米軍を撤退し、
「朝鮮半島」が非核されるという大筋の方向性は作られました。

米朝が接近するのを警戒するのは日本ですが、焦っているのは中国の方です。
これまで韓国のTHAAD配備に神経をとがらし
限韓令と呼ばれる報復措置を行うなどしてきた中国にとって
金一族の体制維持、非核化、米韓合同軍事演習の中止、在韓米軍の撤退
という一連の流れは一見中国にとっても利益にも見えますが、
北朝鮮にとってアメリカから体制保障を確約されたということは
中国の子分でいる必要もなくなったということです。
朝鮮戦争の終結は中国から北朝鮮というカードを奪うことでもあります。
アメリカがタダで朝鮮半島を中国に明け渡すはずもありません。
実際、中国は一方で対話路線を訴えながら、
二回の中朝首脳会談を行い北朝鮮を対米硬化させて、
一時、米朝会談の中止が発表されるなど
できるだけ問題を長引かせようと策略しました。

これまで中国は国際的な非難が集中すると北朝鮮を盾にしてきました。
日本はアメリカ陣営なので特にわかりやすいですが、
東シナ海(尖閣問題)、南シナ海問題などが顕著です。
こうした海上進出の度に北朝鮮が核実験や弾道ミサイルを発射し、
中国は常任理事国の一員として
北朝鮮の後見国である立場を利用して表面上国際協力を行ってきました。

日米は北朝鮮の向こう側に中国がいることをはっきり認識しています。
トランプ政権は今回北朝鮮に融和的な態度を示し、
朝鮮半島のプレゼンスを低下させる一方で、
台湾へのプレゼンスを高めつつあります。
安倍内閣も地震の度に台湾との友好演出を行い、
南シナ海問題への関与を強め、
中国陣営だったマレーシアを引き寄せ対中包囲網を強化させようとしています。
また日米のみならず英仏も相次いで極東に注目し始めています。

特に米中の貿易摩擦は激しさを増しています。
6月下旬からハワイ沖で開かれる
世界最大規模の海軍演習、環太平洋合同演習(リムパック)に、
中国海軍が直前になり招待を取り消され、
さらに陸上自衛隊の地対艦誘導弾(SSM)「12式地対艦誘導弾」を使った
日米初の共同訓練が行われる事で対中牽制が一層鮮明になりました。
日本は中国の海上戦略における第一列島線にあたる
奄美大島や沖縄県宮古島にSSMを配備する予定で
アメリカもフィリピンやインドネシアでの導入を検討しています。
これに対し中国は近く
移動式多弾頭型の新型ICBM「東風41」を実戦配備する予定で
対中圧力を強化し、貿易戦争を仕掛けるトランプ政権を牽制しています。

Type 12 Surface-to-Ship Missile
陸自の12式地対艦誘導弾
(出典:陸上自衛隊)

今年は日中平和友好条約締結40周年であり、
年内にトップの相互往来が決まり急激に日中融和が進んでいますが、
これは朝鮮戦争集結に向かいつつ
米中対立が深刻化していることの象徴でもあります。
窮地に立たされる中国が北朝鮮に代わる新しいカードにしようとするのは
他でもない日本かもしれません。
中国は次の議長国が回ってきたタイミングで
5月に行われたばかりの日中韓首脳会談
12月に再び北京で開催することを呼びかけました。
日中韓首脳会談が年内に二度開催されるのは異例です。
アメリカを排除した形で極東の影響力を誇示したい中国の思惑が見えます。

日米同盟は強固ですが、やはりネックなのが経済問題です。
TPPによって経済的にも対中包囲網を固めたい日本ですが、
トランプはあくまで二国間協定によって大国の我を通そうとしています。
この日米の対立点を中国が狙ってくる可能性があります。
しかしながら経済問題があるからと言って
日米による安全保障を蔑ろにしてしまうことは現実的ではありません。
日本にとって最も注意しなければならないのは
核を部分保有した状態で南北朝鮮連邦が誕生する事です。
韓国は現に竹島を実効支配している侵略国な訳で
在韓米軍というストッパーがなくなればどう暴発するかわかりません。
こうなると日本は現在の韓国のように域内国の中国への融和姿勢に傾き、
中国に取り込まれる可能性も否めません。

日本は今までアメリカの威を借ることで
なんとか北朝鮮や中国に対峙してきた訳ですが、
アメリカファーストを訴えるトランプ政権の誕生、
極東情勢の変化でアメリカに対するリスクは高まりつつあります。
では民主党が志したようにアメリカから中国にくら替えすればよいでしょうか?
トランプ政権がいくら危険だからと言っても
中国共産党の方がよっぽどリスクがあります。
答えは9条廃止を含む憲法改正しかないのではないでしょうか?
極東において唯一核を持たない国家である日本にとって
北朝鮮問題は日本の国内問題に強く結びついています。
2020年までの改憲は時期尚早ではなく、かなり現実的な目安に思えてきます。
今回の米朝会談でよりスピード感を持つ必要ができた
と言えるのではないでしょうか?

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