G7広島サミット。

5月19日から21日にかけて
G7広島サミットが開催されました。
伊勢志摩サミットから7年ぶりの日本開催ですが、
まずは昨年7月8日の安倍元総理、先月15日の岸田総理の襲撃事件を受けて、
日本警察の要人警護が問題視されることが多かっただけに
無事に終わった事に安堵しています。

President Joe Biden toured the 1,400-year-old Itsukushima Shrine in Hiroshima with G7 leaders (01)
厳島神社での記念撮影に応じるG7首脳
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意義あるサミット

今回のサミットは過去のサミットと比較しても
世界にとっても、日本にとっても歴史的に大きな意味を持つサミットでした
現在ウクライナ侵攻でロシアが核の使用を仄めかす中で
被爆地である広島に核保有国である米英仏を含むG7の首脳が集結し、
共同で広島平和記念資料館を訪れ、記念碑に献花をしました。
G7に続き、ウクライナ問題に中立的な核保有国インド
日本と同じく北朝鮮の核に脅かされる韓国を含む招待国、
そして最後に電撃的な訪日となった
戦争当事国ウクライナゼレンスキー大統領
広島平和記念公園を訪れて記念碑に献花をしました。
これほど多くの外国首脳が被爆の実像に触れる事はかつてありませんでした。

Prime Minister Rishi Sunak attends G7 Summit in Hiroshima Japan (52907950772)
広島平和記念公園を訪れたG7首脳
(出典:Number 10

各国首脳の広島訪問実現の種がまかれたのは間違いなく
現職大統領として初めて行われた
安倍総理時代のオバマ大統領広島訪問、それに先立つG7外相会合だったでしょう。
ただ、この時は日米の和解と連携を内外に示す場として
現職総理として初の安倍総理の真珠湾訪問と対になる形式であり、
特にハワイ出身であり核廃絶を掲げノーベル平和賞を受賞した
オバマ大統領個人の最後の晴れ舞台の側面が強く、
資料館もたった10分の滞在で、
オバマ大統領と被爆者が抱き合う象徴的な写真が撮られましたが、
広島の被爆に対して本気で向き合えていたのかは疑問が残りました。

今回はアメリカのみならず、イギリス、フランス、
そしてNPT非加盟のインドの首相も資料館を見学し、
滞在時間も40分と前回の10分を上回り、
各国首脳に被爆の実態をより深く知ってもらう機会だったでしょう。

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G7会合に参加するゼレンスキー大統領
(出典:首相官邸)

今回、戦争当事国であるウクライナのゼレンスキー大統領が
20日に急遽来日し、サミットはさらに刺激的で象徴的な出来事になりました。
これは岸田総理のウクライナ訪問時から秘密裏に進められていましたが、
日本政府はG7に合わせてインドやブラジルなど
有力なグローバル・サウスの国を中心に招待していました。
ウクライナを支持するG7だけでなく
ウクライナ問題に中立的なグローバルサウスとの対話の機会が設けられたことは
ウクライナにとって非常に重要だったでしょう。
アメリカは広島で行われた首脳会談で追加援助を約束し、
同盟国が戦闘機F-16をウクライナに供給する事を容認するなど
G7がウクライナ支援で結束し、
今年のG20議長国であるインドにもウクライナの立場を説明しました。
インドがウクライナの要請に応えて対露制裁に動くことは無いでしょうが、
モディ首相はウクライナ問題を
ただの経済や政治の問題でなく人道の問題だと語ったように
ブチャ虐殺でロシアへの批判の色を強めたインドは
ロシアの核使用を絶対に認めないでしょう。

広島ビジョン

核を持つ国、持たない国、
落とした国、落とされた国、今まさに落とされようとしている国、

それぞれ違う立場の国が
ロシアによる核兵器の使用という国際的脅威を前に被爆地広島に集まり、
サミットを通じて世界平和という一つの理想を共有したのは間違いないでしょう。
ロシアはさっそくサミットは国際社会の総意ではないと反発しています。
ウクライナ問題に対して各国で政治的な温度差があるのは事実ですが、
ロシアの核兵器使用を阻止するという意味でこれ以上にない抑止になったと思います。

大成功としか言えない今回のサミットですが、
日本国内では成功を疑問視する声が上がっています。
特に反核派は広島ビジョンを被爆地広島で抑止としての核を認めたとして
日本政府が未だに核兵器禁止条約に参加しない事を
恥ずべき事とこきおろす意見がありますが、
核保有国が参加しない核兵器禁止条約に何の意味があるというのでしょうか?
今まさに喫緊の課題はロシアに核兵器を使わせないことであるのに
ロシア以外の米英仏印が一方的な核軍縮を行うなど
そんなトンチキな事を言い出すはずがありません。

招待国の狙い

全面的にウクライナ戦争と核にフォーカスが当たった今回のG7でしたが、
日本はG7唯一のアジアであり、アジア問題を取り上げる事を忘れていません
中国はロシア同様武力を持って台湾を恫喝しています。
G7の共同声明では中国について分量を割き、
NATOが日本国内の連絡事務所開設を発表し、中国が反発していることなどを踏まえ
G7各国の対中政策が中国に危害を加えることを意図したものでも、
経済的発展を妨げるものでもないとする共通原則で一致
する一方で
台湾海峡の平和と安定、海洋進出に対する懸念を表明しました。

サミット議長国は毎回サミットへの招待国を決める権限がありますが、
今回のサミットに日本はG20議長国のインドを始め
ASEAN議長国インドネシア、アフリカ連合議長国コモロ、
太平洋諸島フォーラム議長国クック諸島、
そしてオーストラリア、韓国、ベトナム、ブラジル
を招待しました。
中国と競って南半球のグローバルサウスとの関係強化を意図するラインナップですが、
インドとオーストラリアはアメリカと共にクワッドメンバー
20日には広島でクワッド会合が開かれ、東シナ、南シナ海への海洋進出を進め、
台湾への軍事圧力を強める中国をけん制しました。
ベトナムは国交樹立50周年であり、対中国ではパートナーと言える国です。

インドとブラジルはG7のドイツと共に
国連常任理事国入りを目指すG4メンバーでもあり、
G4はアフリカ勢二カ国も常任理事国に参加すべきとしていて
アフリカ連合とも関係強化を図っています。
常任理事国であるロシアがウクライナ戦争を起こし、
中国が誠意ある対応を見せず、国連が事実上機能停止に陥っている今、
戦後の国連改革に向けて何らかの話し合いが行われた可能性もあります。

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韓国人原爆犠牲者記念碑を訪れた日韓首脳
(出典:首相官邸)

また韓国のユン大統領とは
岸田総理と共に夫婦そろって韓国人原爆犠牲者慰霊碑を訪れ献花しました。
これも歴史上初めての事ですが、
従軍慰安婦や徴用工のように日本政府に責任を押し付けるのではなく、
韓国人被爆者支援について十分ではなかったと
韓国政府として謝罪した事はこれまでの韓国大統領との違いを感じます。
日韓関係改善にまい進するユン大統領の脳裏には
北朝鮮の核の脅威があります。
日米韓首脳会談もG7に合わせて行われ、
バイデン大統領は日韓関係改善を歓迎し、日韓首脳の訪米を要請しました。

ヒロシマ市民

これだけの重要な事がわずか三日間に立て続けて起こりました。
岸田総理の支持率はV字回復しています。
今回のサミットは広島選出として岸田総理も並々ならぬ意欲があったでしょう。
原爆ドームを前にした演説で岸田総理は
「世界80億の民が全員『ヒロシマの市民』となったとき核兵器はなくなる」と訴えました。
これは反共演説として有名なケネディ大統領の「ベルリン市民」演説を彷彿とします。
岸田総理はこれまでにも
「10年以内に人間を月に着陸させ、安全に地球に帰還させる」と言ったケネディのごとく
「2020年代後半に日本人宇宙飛行士を月面着陸させる」と発言するなど
ケネディ大統領に個人的な強い思い入れがあるようです。

JFKBerlinSpeech
ベルリン市民の前で演説するケネディ

安倍総理時代の2016年にプーチン大統領を安倍総理の地元山口に招いて
日露首脳会談が行われましたが、
政治家が自身の地元で要人を招くというのは
それだけその会合の重要度を示すものです。
日露平和条約締結は安倍家の悲願であり、あの時が最も近づいた瞬間でした。
6年の歳月が流れ、プーチン大統領はウクライナに全面侵攻し、
ロシアに理解のあった安倍総理は凶弾に倒れ、
あの時とは情勢が180度変わってしまいました。
今、もっともヒロシマの実情を知るべき人物がサミットに参加できないのが悔やまれます。

さて、日本の内政を見ると政権を揺るがすために
立憲民主党が高市大臣を責めた小西文書問題小西洋之議員の失言で自爆し、
立憲の没落と共に統一地方選挙と、衆参両院5つの補欠選挙で
躍進した日本維新の会も、所属議員の失言やパワハラ問題で、今窮地に立たされています。
ロシア渡航計画を立てていた
親ロシア派の鈴木宗男議員を抱える維新は
議員本人の政治的信念とは別として、どう考えても時勢的に不利です。
岸田総理にとって追い風が吹いているこの状況で、
高い支持率を維持したまま、解散総選挙に踏み切る可能性が高まりました。
今後の政局も注視していきたいと思います。

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