日露関係の歴史④ソ連崩壊~現在。

ソ連崩壊は実は領土問題解決のチャンスでした。
直前までの北方領土交渉が反古にされる可能性もありましたが、
初代大統領エリツィンの時代は
北方四島の名を列挙し日本の潜在的主権を認めていました。
当時のロシアは破綻状態だったので
経済支援を受けれれば投売りする可能性が高かったのです。

橋本龍太郎、小渕恵三、森喜朗の時代、日露関係は比較的良好で
水面下では鈴木宗男や外交官だった佐藤優が活躍し
歯舞、色丹の二島先行返還が実現直前にまで進みました。
経済的に弱体化していたロシアにとって
当時の日本の経済力は魅力でした。
エリツィンの後任は今では強硬派に思われるプーチン政権ですが、
実はソ連時代も含めて日米安保改正以後
初めて日ソ共同宣言の有効性を認めてくれたロシア大統領なのです。

Vladimir Putin 25 March 2001-5
イルクーツク声明に著名する日露首脳
森首相の後ろに鈴木宗男がいる。
(出典:ロシア連邦大統領府)

しかし、ロシアの混乱する政治や経済を見て
「残り二島の返還がうやむやにされるのではないか?」
という疑念が生まれ、日本は全島一括返還へ拘り始めます。
森首相はただの事故であるはずの
えひめ丸事故の初動対応で危機管理能力を問われ首相辞職を余儀なくされます。
次の小泉政権では従米外交が展開され、
二島先行返還で交渉を続けていた鈴木宗男、佐藤優両氏も
ムネオハウス事件等で逮捕されます。
これは北方領土交渉に関わる国策捜査ではないかと言われています。
ロシアは日本の変化を見て態度を硬化していきます。
領土交渉は再び後退しました。

シベリアの莫大な資源をもって経済復興が進んだロシアは
必ずしも日本の経済力に頼る必要がなくなっていきました。
プーチン・メドベージェフ政権(タンデム体制)
シベリア開発において成長著しい中国と日本を天秤にかけ
強かにより有利な条件を引き出そうとしました。

そして現在…
ロシアは冷戦後、テロ対策で欧米と協力的な関係を築いていましたが、
リーマンショックが起きアメリカの弱体化が進むと
ソ連返りとも言える強硬路線に転じ、
EUの拡大に抵抗してウクライナのクリミア半島を併合します。
アジアにおいてもソ連時代でさえ控えられていた
大統領の国後島上陸を強行し、北方領土のロシア化が進められました。

これを受け西側諸国は対露経済制裁に踏み切ります。
これは各国で温度差が生まれました。
強硬な米英に比べ、日本やフランスは穏便です。
フランスは対テロでロシアと協力関係に有り重要な武器輸出の顧客です。
日本は北方領土交渉と共に
3.11により原発稼働率が0になったため、シベリアの石油は魅力。
原発のないドイツも安いロシアの天然ガスは重要です。

一方で制裁がロシアを追い込んだことも事実です。
アメリカではシェール革命が起き、
原油価格が下落、ロシア経済は痛手を受けます。
また成長著しい中国の脅威も語られ始めました。
人口の少ない極東、シベリア地域の隣には人口過多の中国があります。
ここから中国資本が流入し、経済的に中国に侵略されてしまうという問題。
ランドパワーの国としては例え友好国であっても十分に考慮すべき問題です。
こうした中で再び現れたのが日本です。
北方領土をエサに西側の対露制裁を崩し、
日本の経済力を頼りにシベリアを開発して
同時に中国への牽制極東の人口を増加させるというのがロシアの狙いです。

日本にとってもシベリア開発における恩恵対中包囲網の一環。
また孤立化に進むであろうアメリカに代わる大きなパートナーとして
ロシアの重要性が高まりつつあります。
冷戦時代から続くロシアの日本に対する懸念であるアメリカの影響力ですが
このところ日本はアメリカ離れに進んでいます。
安部総理はオバマ大統領の制止を振り切ってソチに向かいました。
ロシアとの関係改善は憲法改正
国連常任理事国入りに向けても大きなアクションであり
そのまま対米従属=戦後レジームからの脱却を指すものです。

(出典:首相官邸)

外務省の官僚間では長年に渡り解決できなかった日露問題。
トップ同士で解決するしかないという状況において
短期間でころころと政権が代わるようでは一向に前に進めません。
こういう点からもプーチン政権と安倍政権という
互いに強力で安定した長期政権が存在している時期
北方領土問題解決、平和条約締結の最大のチャンスと言えます。
また世界情勢を鑑みても、お互いの利害が一致する今が重要です。

戦後71年も経ちます。
心情的にはもちろん四島返還
もっと言えば南樺太は戦争の結果であったから放棄したとしても
平和的条約で認められた全千島列島も返してもらいたいところですが、
オバマ大統領の広島訪問のように
条件に固執せずに多少の妥協をしなければならないと思います。
また、これはロシア側にも言えることです。

プーチンは柔道家でもあり「引き分け」と表現していましたが、
ロシア側にはどれだけの譲歩の余地が有るのでしょうか?
日本が最初から千島列島、南樺太の領土要求をしなかったことで
合意ラインとしては
二島でも四島でもない歯舞、色丹、国後の三島返還あたり、
面積等分方式以上は勝利ラインではないかなと思います。
また、これを実現するにはそれなりの対価も必要になるという事です。
少なくとも北方領土に在日米軍を置くことはできないしょう。
今の流れなら沖縄も含め将来的な
在日米軍の撤退まで視野に入れなければならないかもしれません。
しかし日本にとっては対中国、北朝鮮において
日米同盟が有効に働いてる以上難しい判断が迫られていると言えます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました