皇室典範改正。

今国会での皇室典範改正法案成立にあたり、
ここで一度議論をおさらいをしておきたいと思います。

皇室典範とは皇位継承など皇室におけるルールを定めたもので
いわば天皇家の家訓のようなものです。
議論の発端は天皇の後継者不足にあります。

皇位継承は明治憲法以来、男系男子に限るとされ、
それは現行憲法下でも引き継がれてきました。
現皇室典範下での皇位継承順位は
皇嗣であられる天皇陛下の弟君の秋篠宮文仁親王(60歳)が一位。
その子である悠仁親王(19歳)が二位。
上皇陛下の弟である常陸宮正仁親王(90歳)が三位と3人しかいない状況です。

悠仁親王殿下

ご年齢から考えて次代の後継者として考えられるのは
悠仁様ただお一人という状況であり、
今の状況では悠仁様が即位される将来
皇位継承において非常に大きな重責を一人で抱えてしまうでしょう。

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男性皇族減少の理由

戦前は昭和天皇の弟宮(直宮家)である秩父宮、高松宮、三笠宮に加え、
伏見宮、閑院宮、山階宮、北白川宮、梨本宮、久邇宮、賀陽宮、
朝香宮、東久邇宮、竹田宮、東伏見宮など11の宮家(旧宮家)が存在しましたが、
占領時代、アメリカ(GHQ)の命令により、
昭和天皇に血縁的に近い直宮家を残し、11宮家51名の皇籍離脱が決まりました。

戦後の貧しさの中、財政上の理由のために行われたとされますが、
宮家の存在価値は皇室をお支えするためであり、
この時点でGHQが皇室の弱体化将来的な天皇廃止を目論んでいたことが伺えます。
11宮家の臣籍降下が現状の後継者不足の直接的な要因であったと言えます。

昭和天皇は男4兄弟であり、3人の弟宮がありました。
戦後の段階では男性皇族も多かったので
旧宮家が皇室を離れても当面
皇位継承について問題はないと見られていました。
しかし、秩父宮も高松宮も子女に恵まれず
末弟である三笠宮からは三人の男子が誕生し、
三笠宮寬仁親王桂宮、高円宮を輩出しますが、
不運な事にいずれも若くして病死され、
三笠宮崇仁殿下は三人の息子全てに先立たれ、
2016年に皇室最高齢の100歳で薨去されました。

現存する宮家は直宮家である
上皇陛下の弟宮である常陸宮と天皇陛下の弟宮である秋篠宮
そして、男子不在のため断絶見込み三笠宮(三笠宮寛仁親王妃家)
高松宮の4宮家のみとなっています。

小泉内閣の皇室典範改正論議

愛子内親王殿下
(出典:外務省)

2001年に愛子内親王がお生まれになられた祝賀ムードの中で、
時の小泉内閣では将来的な皇位継承のため、
皇室典範改正の機運が高まりました。

この時点では秋篠宮も眞子内親王佳子内親王と女子しかいなかったため、
直系長子である愛子様が将来天皇に即位できるような
法改正の方向性(女性天皇、女系天皇の容認)でしたが、
急転直下の秋篠宮妃紀子さまのご懐妊、
その後2006年に男子誕生(悠仁親王)となり、
国会提出直前の土壇場で女性・女系天皇容認を退き、
皇室典範改正論議は凍結されました。

現在も小泉内閣時代の流れから直系長子の継承を訴え、
愛子内親王を天皇に担ごうという派閥が存在します。
女系はダメだけど女性天皇は歴史上に存在したので
男系女子である愛子天皇は問題ないという意見もあります。

ただ、そもそもの前提ですが、
今回の改正は悠仁様の次の世代の話であり、
この議論において、立憲民主のように愛子天皇待望論を掲げるのは
全くもってナンセンスであるという事を留意頂きたいと思います。
愛子様を否定しているのではなく、
現行皇室典範で決まっている皇位継承順位を蔑ろにするのは
不敬にもほどがある事を肝に銘じるべきだという事です。
天皇は人気投票ではありません。

女性宮家創設と旧宮家の養子案

今回、2年に渡る議論の末、
衆参両院の議長を中心に与野党で取りまとめられた
女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持する案
旧11宮家の男系男子を養子に迎える案の2案を了とする
立法府の総意が示されました。
何をもって総意なのかよく分かりませんが、
リベラル系の女系容認派と保守系の男系男子維持派の両論を
そのまま入れ込んだ玉虫色の内容でしかないと思います。

女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持する案

女性皇族は現皇室典範では
一般人とご結婚されれば皇籍離脱となり一般人となる決まりですが、
秋篠宮殿下は悠仁様が将来、一人で重責を担わなくてはならない事を憂い、
眞子様と佳子様で弟を支えてほしいという思いから
女性宮家に前向きであるという報道もされていました。

ただ、私は女性宮家には懐疑的です。
女性皇族が結婚後も残り続けたとして、配偶者やその子の身分をどうするのか?
現在の改正案では配偶者やその子は皇族の身分を持たないとされていますが、
近い将来、高い確率で「皇位継承権を与えよ」という声が生まれ
女系天皇への入り口になることが目に見えているからです。
実際、女性宮家を認めるかどうかは、
女性天皇・女系天皇問題と切り離して議論することはできません。
眞子様と小室圭氏との結婚について、国内を二分した議論が巻き起こりましたが、
これ以上の騒動に発展する事は明らかです。

自民党の中曽根弘文氏が、
愛子さまが天皇になった場合に「結婚する人もいない」と発言して炎上しましたが、
歴史的に女性天皇は生涯未婚であったり子供を産まなかったのは事実で、
男系継承で続けてきたお世継ぎに問題を生じさせてしまう事から、
これを意図して避けてきたことが伺えます。
つまり、男系継承は男女差別でも何でもなく、
女性天皇容認は多大な心理的負担を女性皇族に追わせることに他なりません。

そもそも女性宮家は公務の負担軽減が目的であり、
皇統の安定維持とは関係がないばかりか
伊勢神宮祭主で在られる黒田清子さま(天皇陛下の妹君)など
皇族の身分を離れたとしても
現に様々な場所で旧皇族の方々は公務を行っています。

旧宮家の皇室離脱とは逆で、女性宮家の創設は
結果的に将来多くの宮家を抱える事になり皇室経済を圧迫し、
それこそ皇室とは赤の他人が女性皇族に近づき、
その子(女系)が皇位継承権を持つようなことがあれば
皇室の歴史は途絶え、王朝交代が起こることになってしまいます。
女性宮家は皇統の安定とは真逆の要素しかありません。

これは皇室の未来を変える重大な判断与野党合意の上で成立させるため
政府、自民党が左派系野党に
旧宮家からの養子を認めさせるための交換条件として入れ込んだ
政治的判断だったのではないかと勘繰ります。

旧11宮家の男系男子を養子に迎える案

冒頭に述べたように男系男子の減少が真因なのだから
男系男子を増やすことが問題解決の最短ルートであり、
その意味では旧宮家の皇族復帰しか方法はないと言えます。
例えば三笠宮や高円宮など後継ぎがいない宮家に、
旧宮家の男系男子を養子として迎え入れるのが現実的な方法と言えるでしょう。

今回の政府案を見ると養子は
旧宮家の男系男子で15歳以上の本人の意思がある者に限るとされています。
そして養子には皇位継承権を与えないが
養子の子が男子であれば皇位継承権を有すると明言されました
立憲民主などの野党は
養子の子が皇位継承権を持つ事は賛同していないと撤回を求めましたが、
そもそも皇族男子が皇位継承権を持つ事は
現皇室典範第一条から変更はないので、皇位継承権を持つのは当たり前です。
改正法案には変更点(養子の身分)しか書かれておらず、
撤回すべきものはありません。

私はむしろ維新同様に年齢制限をつける事に反対です。
一般の民法でも15歳以下の場合は本人の意思に関係なく
実親と養親の同意養子縁組が行われています。
帝王学を学ばせ、皇族としての素養を身につけるという意味かもしれませんが
0歳や1歳で養子として迎えて最初から育てればいいし、
最初から皇位継承権を与えればいいでしょう。
なぜ一代ワンクッションを挟まなくてはいけないのかが分かりません。
それだけの時間的余裕があればいいですが…

一方、女系容認派は
旧宮家を赤の他人といい皇族復帰に否定的ですが、失礼にもほどがあります。
確かに皇籍を離れてから約80年が経過しており、
一般国民として生活してきた方々であることは事実です。
しかし、旧宮家はいずれも伏見宮家を祖とする男系の皇族であり、
皇籍離脱も本人の意思ではなくGHQの占領政策によるものでした。
しかも、昭和天皇は旧宮家の方々に対し、
将来皇位を継ぐ可能性を念頭に置いて身を慎むようお言葉を残され、
皇籍離脱後も菊栄親睦会などを通じて交流が続いてきました。
つまり、皇室との関係が完全に断たれていたわけではありません。

また、旧宮家(伏見宮系)が600年前に分かれた傍系である点から
皇位継承には相応しくないという意見も聞きますが、
一般家庭のように直系長子が家督を相続するという考え方は、
必ずしも皇室の伝統ではありません。
古代には兄弟間で皇位が継承される例や、
兄を差し置いて末弟へ皇位が継承された例もありました。
皇位継承で重視されてきたのは、その時々の天皇との血縁の近さではなく、
男系を遡った先で初代神武天皇へと繋がる皇統を維持することでした。
皇統の正統性は男系を持って保たれてきたことから
女系は今まで一度たりとも認められてきていませんが、
数代離れて皇位を継承した事例は過去にもあります。

その上で、伏見宮系に至っては、天皇家と歴史的に何度も婚姻を重ね、
緊密な血縁関係を維持してきました。
明治天皇の娘は全て伏見宮系に嫁いでいますし、
昭和天皇の妃で、上皇陛下の母である香淳皇后
伏見宮系である久邇宮家出身です。
つまり、天皇陛下も伏見宮(旧皇族)の血を強く引いています
旧宮家を否定する者は600年前の傍系という部分だけを抜き取って、
この事実を矮小化、もしくは意図的に無視しています。

伏見宮系が600年前の傍系である事そのものよりも
約550年に渡って天皇家と並走し、宮家として保存されてきた意味や、
なぜ戦後にGHQ(アメリカ)が11宮家の皇籍を奪ったのかを考えるべきであって、
皇統維持という観点から見れば、その存在意義は決して小さくありません。
皇室制度で最も重要なのは、一時的な人員不足への対症療法ではなく、
皇統を将来にわたって安定的に維持できる制度であるかどうかです。

今国会の皇室典範改正論議

今回の皇室典範改正を主導したのは、
自民党の重鎮である麻生太郎副総裁でした。
高市内閣が衆議院選挙で圧倒的多数を確保したこの機を好機と見て、
皇位の安定継承のために
皇室典範改正論議を前へ進めようとしたものと思われます。

麻生太郎自民党副総裁
(出典:内閣官房内閣広報室)
三笠宮寬仁親王妃信子殿下
(出典:防衛省)

麻生副総裁は、実妹である信子さま
三笠宮寬仁親王妃であり、皇室とも深いご縁があります。
85歳の麻生副総裁が政治家としての集大成として、
副首都や議員定数削減など様々な法案成立を犠牲にしてでも
皇室へ最後のご奉仕をしようという思いもあったのではないでしょうか。

一方で、女系天皇容認派からは、中世の藤原氏のように
麻生氏が皇室をコントロールしようとしているとの批判もあります。
しかし私は、その批判は本質を外しているように思います。
現憲法下で藤原氏のような皇室介入は不可能です。

仮に女系天皇を認めれば、
旧宮家よりも圧倒的に皇室とは関係のない男性
女性皇族と婚姻し、その子が皇位継承者となる可能性が生まれます。
むしろこちらの方が、
皇統への恣意的な介入へと繋がる危険性を内包しています。

日本の歴史を振り返っても、
女性天皇の時代には道鏡が皇位を狙った事件がありました。
また、中世においては藤原氏が女性皇族との婚姻によって
皇室と外戚関係を結んで、長く政治的な影響力を持ち続けました。
それでも皇統そのものは男系によって維持されてきました。
歴代の人々は、権力争いと皇統の継承を切り分けるための知恵として、
男系継承という原則を守り続けてきたのではないでしょうか。

男系継承の意味

この議論では、「神武天皇は架空の人物」
「万世一系は神話であり、歴史的事実ではない以上、男系継承に意味はない」

という意見も聞かれます。
しかし私は、この点は歴史認識とは別問題だと考えています。

歴史学としての事実と、
長い年月をかけて社会全体が共有してきた伝統や権威は、
必ずしも同じものではありません。
天皇とは太陽の女神である天照大神の子孫である神武天皇を起点とし
万世一系で神聖不可侵の存在であるという社会的合意、
いわば不文律こそが、天皇の権威を支えてきたのです。
我々からそう遠くない時代にも
天皇陛下の名のもとに多くの国民が命を捧げてきたのです。

古代において王が合議によって選ばれていた可能性はあるでしょう。
卑弥呼など女性の首領がいたことも事実でしょう。
しかし、その後の皇位継承について男系という原則を定め、
それを千年以上守り続けてきたこと自体が、
日本という国家の歴史であり、伝統です。

この2600年という歴史の積み重ねは、
私たちが生まれる以前から続き、私たちが亡くなった後も続いていくものです。
だからこそ、この一時代の価値観だけで
安易に制度へ手を加えるべきではないと考えます。

皇室典範の本来の姿

そもそも旧皇室典範は、天皇家の家法として位置付けられ、
政治が容易に介入できるものではありませんでした。
戦後、これが一般の法律となったことで、国会で改正できる対象となり、
結果として各政治勢力がそれぞれの立場から
皇室制度を政治問題として扱うようになってしまいました。

これは日本国憲法下における国民の合意に基づく地位とされる
象徴天皇を担保するためという事なのかもしれませんが、
そうであるなら憲法第一条に定める重要な天皇の在り方について
政治家が閉ざされた環境で決めるのではなく、
広く国民の声を直に反映させるために国民投票を行うべきです。

実際、左派系野党やマスコミが盛んに
女性・女系容認論や愛子天皇論を掲げますが、
そもそも愛子天皇を実現するには皇室典範第一条を改正するしかないので、
愛子天皇が非現実的であることは初めから分かっており、
女性女系をない交ぜにした世論調査などを盾にして
男女平等など、もっともらしい事を言って民主主義を装いながら
皇室を政争の具にして弄んでいるだけにしか見えません。

左派が好んで使う「皇室典範は人権侵害」
という考え方を徹底するのであれば、
むしろ旧皇室典範のように、
天皇家自身が定める家法として位置付けるという考え方も成り立つでしょう。
誰も自分たち家族のことを他人に決められたくはありません。

女系を認めるか、旧宮家の皇族復帰を認めるかという結論以前に、
最終的には皇室のご判断として受け止めるべきであり、
政治家が自らの理念のために
皇室制度を利用することこそ慎むべきではないでしょうか。
また、現状においてその実現が難しいからこそ、
大幅な改正はすべきではなく最小変更に留めるべきなのです。

まとめ

皇室典範改正を巡る議論は、
「女性天皇か、男系男子か」という単純な二者択一ではありません。
本来問われるべきなのは、
現在の皇室が抱える後継者不足という課題を、
どのような制度で長期的に解決するのかという点です。

女性宮家の創設は公務の担い手を確保する効果は期待できますが、
皇位継承問題そのものの解決策にはなりません。
一方で、男系男子の皇統維持を前提とするのであれば、
GHQによって皇籍を離れた旧宮家の存在
どのように位置付けるのかは避けて通れない問題でしょう。

皇室制度は一度改めれば簡単に元へ戻せるものではありません
だからこそ、その時々の世論や感情だけではなく、
数十年、数百年先まで見据えた議論が求められているのではないでしょうか。

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