ついにイスラエルとイランが交戦状態に突入しました。
ライジング・ライオン作戦
6月13日、イスラエルが「ライジング・ライオン作戦」と名付け、
イランに対して奇襲攻撃を行いました。
イラン国内の十数か所の軍施設や核関連施設に大規模なミサイル攻撃が行われ、
首都テヘランの住宅ビルなどにも被害があり、
軍関係者や子供20人を含む市民も犠牲になりました。
イスラエルのネタニヤフ首相は
「イスラエルの存続そのものに対するイランの脅威を撃退する作戦」として
脅威が排除されるまで攻撃を継続するとしています。
作戦名であるライジング・ライオン(立ち上がるライオン)とは
1979年イラン革命以前の
イランの国章である獅子と太陽を引き合いにしたもので、
イラン国民に対して「自由なイラン」への回帰を呼びかけたものです。
結局のところイスラム体制を崩壊させたいという
ユダヤ国家イスラエルの意志表明であり、イラン政府の国家転覆が狙いです。
イラン国民がそれに乗るとは思えません。

この攻撃はイランにとってイラン・イラク戦争以来最大規模であり、
これまでの挑発的な一過性の攻撃とは規模も質も全く違います。
イランのハメネイ師は報復を宣言し、
14日未明にはテルアビブの市街地にミサイルを発射しました。
現地の映像を見ると超音速兵器と思われる軌道で、
アイアンドームの迎撃をすり抜けて地上に着弾、炎上する様子がありました。
これまでは軍事施設に限定した攻撃でしたが、イランは報復レベルを引き上げました。
反撃を受け、イスラエルは小型無人機ドローンによる石油ガス施設の攻撃を行い、
攻撃範囲を都市インフラに広げました。
イランも同様のインフラの攻撃を示唆しており、エスカレートが止まりません。
イスラエルとイランの対立
イスラエルとイランの緊張関係はイラン革命以来続いてきたものですが、
今回、直接的なきっかけとなったのが
イスラエルとハマスの戦争(2023年イスラエルのガザ侵攻)です。
イランがパレスチナのハマス政権を支援しているという事で
イスラエルはイランを敵視してきましたが、
これまでは地域の軍事大国であるイスラエルとイランは直接交戦することは無く、
イランはハマスやヒズボラ、フーシ派などの反イスラエル組織を支援し、
代理戦争が行われていました。
イスラエルも諜報機関モサドを使ってイラン国内で暗躍してきました。
事態が変わったのは
2024年4月1日、イスラエル軍がシリアのイラン大使館を攻撃してからです。
これを起点としてお互いの国土を直接攻撃し始め、報復の連鎖が始まりました。
5月20日には謎のヘリ墜落事故で、ライシ大統領とアブドラヒアン外相が死亡。
7月31日にはテヘラン滞在中のハマスの最高指導者ハニヤ師が暗殺されました。
イスラエルはヘリ事故にはノーコメントでしたが、
ハニヤ師の暗殺を認めた事で顔に泥を塗られたイランが再度報復を行いました。
ただ、この頃は互いに軍事施設のみを攻撃対象とし、
事前に攻撃時刻や場所を通知する形式だけの反撃に留めるなど抑制的でした。
アメリカのバイデン大統領が
イスラエルに対して強く自制を求めていたこともあるのでしょう。
イラン大使館の攻撃やハマスの最高指導者ハニヤ師の暗殺など
仕掛けてきたのは全てイスラエルです。
しかし、イランは最後の攻撃を甘受し、報復の連鎖を止める英断を行いました。
それにも拘らず、イスラエルは再びイランを攻撃してきたのです。
ネタニヤフの野望
ネタニヤフ首相は今回の作戦に関して
イランの核開発を辞めさせるという目的を掲げていますが、
2018年にイラン核合意を一方的に離脱したのはアメリカであり、
当時の大統領は就任最初の訪問先として嘆きの壁を訪れ、
親イスラエルを前面に出していたトランプ大統領です。
つまりイランの核開発再開のきっかけを作ったのは
他でもないアメリカのトランプ大統領です。
昨年からイスラエルがイランに対して攻撃的になっていった背景には
ハマス壊滅に加え、2024年アメリカ大統領選があったと思われます。
民主党のバイデン政権はイスラエルの自衛権行使は認めたものの
度を越えた攻撃姿勢を評価していませんでした。
選挙戦の行方から、バイデンの求心力が低下し、
親イスラエルの共和党トランプ大統領のカムバックが確定的になっていくと
バイデン政権による歯止めも効かなくなったのでしょう。
2024年10月にイスラエル軍は
ヒズボラを相手に隣国レバノンにも地上攻撃を開始し、
ガザの局地戦から、さらに国外へと戦域を拡大しました。
トランプ大統領は一期目からパレスチナ問題において
二国家共存に拘らないと発言し、
アメリカ大使館のエルサレム移転を強行しました。
ネタニヤフはガザ占領を既成事実化することで
トランプ大統領からガザ併合のお墨付きを得たいという思いがあったのではないでしょうか?
アメリカさえ味方につけていれば、
最大の障害となるのがイランの核兵器です。
トランプの公算が誤算に?
今回の攻撃についてイスラエルからアメリカに事前通知があったということですが、
アメリカとイランは核協議を継続的に行っている最中でした。
また、ハメネイ師暗殺計画もアメリカに伝えられましたが、
トランプ大統領が拒否したとされています。
ルビオ国務長官は「知らせはあったが、攻撃には関与していない」と
一定の距離を取った発言を行いましたが、
トランプ大統領は「イスラエルを当然支持する」と発言し、
「何も残らなくなる前に」核協議に合意するようにイランに迫りました。
この戦争をディールに使うやり方に自信があったのかは不明ですが、
イランが素直に応じる訳も無く、核協議の先行きは不透明となってしまいました。
中国がイラン支持を表明し、日本もイスラエルの攻撃を非難する中、
ネタニアフとも個人的友好関係にあり、イランとも関係の深い
ロシアのプーチン大統領が仲介の意志を表明しています。
トランプはネタニアフと共にイランをコントロールしたかったのかもしれませんが、
インドとパキスタンの紛争仲介のトランプの様に
プーチンがここで和平仲介に成功したとすると
中東で一気にアメリカの牙城が崩され、ロシアにプレゼンスが獲られることになります。
もし、戦争を止めることが出来るのであれば
ロシアの国際的評価が回復する可能性さえあります。
一方で、アメリカはガザやウクライナで和平仲介を積極的に行ってきましたが、
戦争を脅しの道具に使う国として世界から見放されるのも時間の問題でしょう。
日本の取るべき立場
つくづく思うのは積極的平和主義に取り組んだ安倍元総理が存命であれば
ここまでの事態にはならなかったのではないかという思いです。
第一次トランプ政権の対イラン強硬姿勢に対して
イランを宥め、戦争寸前のところで緩衝材となったのが日本、安倍総理でした。
石破政権が、G7で唯一、イスラエルの攻撃を非難した事は評価したいと思いますが、
こうした急激に変化する世界情勢に日本が何ら噛んでいない事に対して
国際的立場の弱体化を感じます。
エネルギー安全保障の観点から
日本にとって、中東外交の基本姿勢は等距離外交であり、
中東戦争を防ぎ、中東地域が安定する事が日本の国益でした。
しかし戦争が起こってしまった以上は、
そろそろ本音の外交をするべきなのではないかと感じます。
戦後レジームから脱却するのに今ほどの好機はありません。
日本はアメリカからの完全な独立を達成し、
イスラエルとの付き合いを見定め、イランに寄り添う姿勢を鮮明にした方がいい。
今のまま西側という枠組みに拘ってトランプのアメリカに付き合っていれば、
東アジアの緊張を極限まで高められた後、土壇場ではしごを外され、
北朝鮮や中国との前線に日本が立たされ、
日本国民が戦禍に巻き込まれる最悪の事態も想像できます。
現在、カナダのカナナスキスでG7サミットが行われていますが、
シーク教指導者の殺害事件以来、カナダと対立しているインドは欠席しました。
このように民主主義国家同士であっても、1から10まで友好的である必要はありません。
カナダとアメリカの関係だって決して良好とは言えません。
アメリカは西側のリーダーである事をやめ、
トランプ大統領による帝国化が進んでいます。
トランプ大統領はサミットにおいて
G7へのロシア復帰、中国の参加に肯定的な発言を行っています。
国際秩序の挑戦者である中露をサミットに入れたら
国連の二の舞であり、日本の国際的立場はさらに弱まる事になります。
世界が西側と東側で分かれていた単純な冷戦構造は過去のものであり、
平和共存を目指したグローバリズムも崩壊しました。
世界のブロック化が加速する中において
日本は確固たる主権国家として
世界のバランサーになるしか世界戦争回避の道はないかもしれません。
コメント